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第118話 揺らぐ水面に映る影17

祥悟が風呂に入っている間に、自分が寝る部屋の準備をした。 彼が今寝室に使っているのは、もともとは自分の部屋だ。他に、もう随分使われていない客間が3部屋ある。 そのうちの、祥悟から1番遠い部屋のドアを開けた。ほとんど締め切っているから多少空気が澱んでいるが、しばらく換気をすれば大丈夫だろう。 智也は部屋の窓を大きく開け放った。 宵闇に溶け、淡い月明かりにぼんやりと浮かび上がる庭は、祖父が生きていた頃は手入れの行き届いた美しい日本庭園だった。 今でも定期的に管理人が手入れしているので、荒れ果てた状態にはなっていないが、あの頃に比べると精彩がなく、いかにも忘れ去られた庭という雰囲気が漂っている。 庭も生き物なのだ。愛してくれる人がいなければ、生き生きとは輝かない。 「愛される……か……」 自分は寂しいのだろうか。 ただ密かに愛しているだけでは、やはり物足りなくなってきているのだろうか。 同じ気持ちを返してくれる相手が欲しい? ……それは……祥悟じゃなくてもいいのだろうか。 祥悟に恋をしてゲイだと自覚してから、彼以外の相手に目を向けたことはない。他の人間の入り込む余地など、自分の中にはなかった。 ……でも……。 祥悟と距離を置くつもりなら、他に好きな人を見つけるのが1番いい方法なのかもしれない。 同じ性的指向で、自分を愛してくれる可能性のある誰か。マイノリティだからそう簡単ではないだろうが、そういう目的の人々が集う場所なら知っている。 一途に想い続けているから、こうして煮詰まっていくのかもしれない。もっと視野を広げて、自分の心を見つめ直す為にも、これはきっといい機会なのだ。 「あ。そろそろ……出る頃かな」 ぼんやりと考えていたら、冬の夜風が身にしみてきた。祥悟が風呂から出て、自分を探しているかもしれない。 智也は窓を開けたまま、部屋を後にした。考える時間はこれからたっぷりあるのだ。 案の定「ベッド広いんだしさ、ここで一緒に寝りゃいいじゃん」と祥悟は少しだけごねた。 「他に広い部屋があるのに、わざわざ窮屈な思いをして、2人で寝なくてもいいだろう?」と穏やかに宥めると、祥悟はそれほど食い下がりもせず、ベッドに入って布団を被った。それを見届けてから、智也は客間に向かった。 窓を開けっ放しだったせいで、部屋は冷えきっている。 智也は窓を閉めると、納戸から客布団一式を取り出して、古い木製ベッドの寝具を整えた。 部屋の暖房を入れてから、いったん部屋を出て風呂に入り再び客間に戻ると、風呂上がりの温まった身体で布団の中に潜り込む。 二日酔いで寝不足のまま1日仕事をして、身体は疲れているはずなのに、目を瞑っても簡単には寝つけなかった。

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