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第119話 揺らぐ水面に映る影18
ようやくうとうとし始めた頃、カタンっという物音で目が覚めた。
……あれ……窓……開けたままだったかな……。
目覚める直前、何だか息苦しい夢を見ていた気がする。そんなことを、覚醒しきれない頭でぼんやり考えながら、智也はのろのろと音のした方に目を向けた。
月明かりだけが淡く照らし出す室内に、白い影がぼんやりと浮かび上がる。
「……っ」
智也は目を見開き、がばっと身を起こした。
「あ……わりぃ。起こしちまった?」
ベッドのすぐ脇に立っていたのは祥悟だった。白く浮かび上がって見えたのは、彼が着ているシャツと、抱えている大きな枕だ。
「……っ祥」
祥悟はちょっとバツが悪そうに、抱えた枕をもぞもぞと後ろに隠しながら
「ちぇ。おまえって割りと敏感なのな。こっそり潜り込もうと思ってたのにさ」
そう言って、皮肉っぽく笑って首を竦める祥悟の姿に、智也は思わず見とれてしまった。
……なんだろう……この可愛い生き物は……。
祥悟が着ているのは、昨日寝間着代わりに貸した、自分の着古しのシャツだった。
着替えがないと不便だろうと、今日買って持ってきた普段着や下着類の他に、パジャマも渡していた。というか、さっき風呂上がりに祥悟が着ていたのは、そのパジャマだったはずなのだ。
……どうして、そのシャツ……だけ……?
祥悟には大きすぎるそのシャツの裾から、すらりとした形のいい脚が見えている。
ふうわりとウェーブのかかった前髪をいつもはゆるく顔の脇に流しているのだが、今は寝癖であちこち跳ねながら、小さな顔を柔らかく包んでいる。その髪型は、普段とは別人のようにひどく幼げに見えた。
後ろに隠しきれない大きな枕が、身体の脇からひょこっと見えている。
……ちょっと、待って……。
可愛すぎてドキドキする。
そんな無防備な姿は……反則だ。
太腿の半分ぐらいまである絶妙な丈のシャツの裾から伸びる、ほっそりとした白い脚が眩しくて……くらくらしそうだ。
「……祥、ど……したの? 眠れ、ないのかい?」
ようやくの思いで声を絞り出した。
祥悟は若干そっぽを向きつつ、ベッドのすぐ側まで来ると
「俺さ、こういう広い一軒家って苦手なんだよね。ガキの頃の家、思い出しちゃってさ。変な夢見て落ち着いて寝れねーの。だからさ……」
言いながらベッドにぽすんっと腰をおろした。
「やっぱ一緒に寝てくんねえ?」
「……っ」
にじり寄り、下から覗き込んでくる祥悟の上目遣いの目に、智也は激しく動揺した。
……いや、だから、その目も反則だって。
さっき寝る直前まで、答えの出ない絶望的な自問自答を繰り返していたのだ。
その労力を一瞬で吹き飛ばしてしまいそうな祥悟の言動に、智也は目眩がしてきた。
……君は、俺を、どうしたいの。
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