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第128話 挿話(祥悟視点)『猫の気持ち』2
1日中何もせずここにこもっている生活は、たしかに退屈だ。
けれど、自分が独りにならないように峰さんに世話を頼み、智也自身も都合のつく限り、ここに来てくれていた。
智也に匿われて過ごす、この屋敷での何もない日々は、自分でも意外なくらい居心地がよかった。
でも、そんな安らかで穏やかな時間は、いつまでも続かない。そろそろ終わりの時が近づいている。鏡を見るたびに薄れていく顔の怪我の跡が、そのことを教えてくれていた。
智也と丸1日、静かにここで過ごせるのは、多分明日が最後になる。
だから、アリサにその大切な時間を邪魔されたくなかった。出来れば、智也が帰ってくる前に、アリサを説得して追い返しておきたかった。
アリサは、思っていた通り、妊娠などしていなかった。
当たり前だ。いくら薬を盛られて朦朧としていたからって、自分が彼女を最後まで抱いたかどうかぐらいは分かる。あの時、身体は抗えないくらいふらふらだったが、記憶はしっかりと残っていた。
それに別の理由でも、彼女の妊娠は嘘だと確信していた。
ぐすぐすと泣いて言い訳したり、急に甘えたり怒りだしたりする情緒不安定なアリサを、宥めすかしてどうにかこうにか説得している間、時間ばかりが気になって、祥悟はずっとイライラしていた。
そしてようやく彼女を納得させて屋敷から送り出したのは、智也が帰ると告げていた予定の時間ぎりぎりだった。
「電話……くんねーのかよ」
クッションから目だけあげて、転がっている携帯電話を睨みつけてみる。
電話は何も答えてくれない。
「智也の、ばーか」
祥悟はぼそっと呟くと、クッションを抱き締めたまま、ずるずるとソファーに沈みこみ、そのまま丸くなって目を瞑った。
ー完ー
Twitterにあげてみた祥悟視点の挿入話です。
気紛れ猫、祥悟の気持ち。
次からはまた、智也視点に戻ります*_ _)
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