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第130話 硝子越しの想い8
やはり瑞希を連れてきてよかった。
祥悟がこんなに瑞希に興味を示すのは正直意外だったが、おそらくそれは瑞希の醸し出す素直で優しい雰囲気のせいだろう。
祥悟は、自分と2人きりでいる時と変わらないリラックスした表情で、瑞希に時折ちょっかいをかけながらクロワッサンを頬張っている。
もし、自分ひとりで祥悟に対峙していたら、どうだったろう。
昨日のショックを引きずったままの自分と、自分に無視されて怒っている祥悟。
祥悟が不機嫌さを隠さずいつもの調子で突っかかってきたら、自分は感情を抑えきれずに祥悟にぶつけてしまっただろう。
その先にあるのは不毛な言い争いだ。
そうなったら、自分は祥悟に言わなくてもいいことを言ってしまう。せっかくこれまで、ひた隠しにしていた想いを、そんな形でぶちまけてしまったら、もう取り返しがつかなくなる。
何も知らない瑞希が、間に入ってくれて、微妙な均衡が保たれているのだ。
そのことが、今はすごくありがたかった。
「ふうん。おまえ、その見てくれならモテるんじゃねーの?」
「ええ? いや、全っ然です」
「嘘つけ。童顔だけどさ、それって母性本能くすぐるってやつだろ」
「あ。また童顔って言った。僕それ気にしてるって言ってるじゃないですか」
「ばーか。そういうコンプレックスこそがさ、自分の最大の武器なんだっての。むしろそれを前面に打ち出して開き直るんだよ」
「祥悟さん、それ、他人事だから簡単に言えるんですよね?」
「あったり前じゃん。俺はおまえじゃねーし?」
「ふふふ。酷いなぁ。祥悟さんのアドバイス、テキトー過ぎます」
くすくす笑う瑞希に、祥悟はテーブルに頬杖をつき、満足そうににやりと笑って
「テキトーが1番いいんだよ。悩んだって何も解決なんかしねーし? そんな暇あんならさ、楽しいことした方がマシじゃん。なんなら俺が女の口説き方、教えてやろうか?」
「や。いーです、それは。祥悟さんと同じこと、僕がやってもギャグにしかならないもん」
「おまえ、恋人とかいんの?」
祥悟の言葉に、瑞希がはっとした顔になり口を噤んだ。
2人の楽しげなやり取りをそれまで黙って聞いていた智也も、ドキッとして顔をあげる。
……あ。ダメだ、その話題は……
「付き合ってる彼女いねーの? あ、そっか、おまえモテないんだっけ。んじゃ好きな女は?」
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