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第131話 硝子越しの想い9

何も知らないが故の残酷さで、どんどん畳み掛ける祥悟に、瑞季はちょっと困った顔をして黙り込んでしまった。 フォローしようと身を乗り出す智也よりも先に、祥悟は瑞季の顔を下から覗き込み 「好きな女いねえの? じゃあさ、おまえ、俺と付き合ってみる?」 「え……」 「は……? あの、えっと」 祥悟は瑞季に触れそうなほど顔を寄せて 「最近いろいろあってさ、俺、いまちょっと女は懲り懲りなんだよね。おまえ可愛いしさ、俺って多分、男もいけるかも。どうさ? おまえ、そーゆーのダメなやつ?」 妙に色っぽい声で瑞季を口説き始めた祥悟に、瑞季は目を大きく見開いたまま固まっている。 智也は眉を顰め、手を伸ばして、祥悟の襟の後ろをぐいっと掴んだ。 「祥、ストップ。瑞季を揶揄うのはダメだよ」 「いってぇな。離せって。別に揶揄ってなんかいねーし」 「いーや。揶揄ってるだろう? 瑞季はまだ未成年だよ。それに君は、完全なストレートじゃないか。そういう無責任な発言はしないでくれるかい?」 「と、智くんっ」 ついムキになって口調がキツくなった智也に、瑞季が焦ったような目を向ける。 祥悟は襟を掴まれたまま振り返り、智也を下から鋭い目で睨みつけた。 「は? おまえ、何なの? こいつの保護者かよ。 関係ねえのに口出しすんなっつーの」 智也は、あからさまに呆れたようなため息をついてみせた。 「あれだけ周りを振り回して大騒ぎになったのに、君は全然懲りていないよね。俺は確かに瑞季の保護者じゃない。でもとても大切な存在なんだよ。祥、君のいい加減で気紛れな思いつきで、瑞季を傷つけて欲しくないな」 胸の中のむかむかが急速にふくれあがる。こんな嫌な言い方はしたくないのに、口調が、言葉が止められない。 ……何が、「俺って多分、男もいけるかも?」だよ。そんなこと思ってもないくせに、よくそういう残酷なことが言える。 祥悟が、本気で瑞季を口説いているとは思えない。だから余計に腹がたつ。 同性しか好きになれない自分や瑞季と、祥悟との間には、絶対に超えられない壁があるのだ。 そのやるせない壁を、本気でもないくせに、いとも簡単に乗り越えてくる。悪気はないとわかっていても、祥悟の言動にいちいち動揺してしまう自分としては、その気安さが妙に腹が立って仕方ない。 ……そういう色気、無駄に振りまくのは、頼むからやめてくれよ、祥。 「へえ……。こいつがそんなに大切なんだ? 智也。おまえがそんなムキになんの、俺、初めて見たんだけど?」

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