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第135話 硝子越しの想い12
「ん……ん……」
耐えきれずに奪った瑞季の唇は、思ったより柔らかかった。
祥悟以上に華奢なその身体を、ソファーに押し倒してのしかかる。瑞季は一瞬だけ身体を強ばらせたが、すぐにくったりとして、自分の腕にすがり付いてきた。
酷い男が、忘れられない瑞季。
つれない男が、忘れられない自分。
虚しいとはわかっていても、今はお互いに縋る相手が欲しい。このひとときだけ、何もかも忘れて溺れてしまいたかった。
……ダメだ。こんなこと、いけない。
頭の片隅で、良心が微かに泣いている。
でも、久しぶりに深く絡め合った唇の感触は、温かくて甘くて、ひどく優しかった。
「んんぅ……っ」
夢中で甘い密に溺れていると、瑞季がむずかるように身を捩った。智也は少し我に返って、口付けをほどく。
「……っごめん、苦しかった?」
「ん……だいじょぶ。智くん、ね、もっと……して?」
目元をうっすら染めて、恥ずかしそうに囁く瑞季は、さっきまでの彼とは別人のような、ほのかな色気をまとっていた。
智也は妙に昂ってしまった自分を抑えるように、ふぅ……っと吐息を漏らし
「いいの? 俺は」
問いかけた唇は、伸び上がってきた瑞季の小さな唇で塞がれた。しっとりと繋がった場所で舌がちろちろ動いて、一瞬冷めかけた熱を再び煽っていく。
ダメだと囁く良心の声が、遠ざかる。
何故ダメなのか、何がいけないのか、今はもう考えたくない。
祥悟との関係に1人空回りし続けた徒労感が、全てをなげやりな気分にしていた。
「ん……ふ……んぅ……」
瑞季の頭を押さえて、口付けを更に深くした。隙間なく密着して、零れ落ちそうになる心の嘆きを封印してしまいたい。
違う、そうじゃない、と、叫びたくなる心を、麻痺させてしまいたかった。
智也はぎゅっと目を瞑ったまま、空いている方の手で瑞季の身体をまさぐった。
肉の薄いほっそりした身体。肩も胸も折れそうに細い。でも、自分が求めているのは、肉感的な女の身体じゃない。自分はやはりゲイなのだ。たとえ相手が祥悟じゃなくとも、求めているのは男の身体だ。
シャツの前を肌蹴させ、薄い胸板にそっと唇を這わせる。瑞季の肌は、思春期の少年特有の乾いた草のような香りがした。
首筋に唇と舌を這わせると、瑞季の身体はぴくんぴくんと微かに震えた。密やかに漏れる喘ぎ声は、甘く掠れてせつなげだ。
身体の奥底から、どうにもならない熱が次々と沸き起こってきて、堪らなくなる。
起伏のない白い胸に、慎ましやかに息づく小さな尖り。色素の薄いそれを、突き出した舌でちょんっとつつくと、瑞季はぴくんっと大きく震えて可愛い声で鳴いた。
頭にかかった白い靄が、思考する力を奪っていた。考えるより、今は感じたい。
目の前に捧げられた青い蜜の滴る果実に、ただひたすら溺れていきたかった。
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