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第140話 硝子越しの想い17

リビングのドアを開けて中を覗き込むと、もうすっかり服を身につけてしまった瑞季が、こちらを振り返りソファーから立ち上がった。 「智くんっ」 智也はバツの悪さに、瑞季を真っ直ぐに見れず 「ごめん、瑞季くん。放ったらかしにして」 「ううん。智くん、大丈夫?」 「あ……ああ。何でもないよ。急に飛び出して、本当にごめんね」 おずおずとソファーに近づいていくと、瑞季はぱたぱたと駆け寄ってきて 「僕は全然、平気。それより智くん。誰かから電話だった? もしかして……祥悟さん?」 顔を下から覗き込んでくる瑞季の、無邪気な視線が痛い。智也は苦笑いをすると 「あー……。うん、いや。留守電だけどね」 「祥悟さん、何て? やっぱり来て欲しいって言ってきた?」 「え? ……いや、そうじゃないけど」 瑞季は不思議そうに首を傾げると 「じゃあ、呼び出されたわけじゃないんだ? ふーん……」 「うん。瑞季くん。それよりその、途中で……その……中断してしまって……申し訳ない。ただ俺は」 瑞季が不意に手を伸ばしてきた。びくっとする智也の手を取ると、にっこり笑って 「智くん謝りすぎ。僕、別に怒ってないし。それより……」 言いながら瑞季は伸び上がって、すぐ間近から顔を覗き込んできた。智也がドキッとして目を逸らすと 「智くん……泣いてた? 目が真っ赤だよ」 「あ……いや、俺は、別に」 ますます顔を背け、手を振りほどこうとする智也の手を、瑞季は逆に握り締めてぐいっと引っ張ってくる。 「智くん。泣いてたでしょ? 祥悟さんのこと、思い出しちゃった?」 瑞季の邪気のない言葉が辛い。引っ張られた手をもう一度振りほどこうとすると、瑞季は自ら手を離し、今度はガバッと抱きついてきた。 「……っ。瑞季、くん?」 驚く智也の身体に細い腕でぎゅっと抱きついて、瑞季は胸に顔を埋めてくると 「ごめんね。僕が智くんに、変なお願いしちゃったから。智くん……乗り気じゃなかったもんね」 「っ? いや、違うんだ。君が謝ることじゃ」 「僕……僕ね、寂しくて……亨くんのこと忘れたくて、智くんを代わりにしようとしたんだ。ごめんなさい。智くん、優しいから、つい……縋ろうとしちゃった」 そんなことはない。自分の方こそ、瑞季を祥悟の身代わりに抱こうとしたのだ。瑞季よりずっと歳上なのに、高校生の彼に縋ろうとしてしまった。 謝らなければならないのは、自分の方だ。 「瑞季くん。俺は、」 「智くんは、僕を抱いても忘れられないよね。祥悟さんのこと、すごく好きなんだもんね」 「……っ」 ずばりと言い切られて、返す言葉が見つからない。智也は瑞季の華奢な身体を優しく抱き締め、柔らそうな髪の毛をそっと撫でた。

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