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第3話
朱雀宗の母親、朱雀茜は優秀なアルファ家系朱雀家の次男として生まれた。
茜の兄は年が離れていたので年が近かった使用人の子どもの洋子ともうひとり、庭師の息子の橘が遊び相手兼幼馴染みとして育った。
三人で庭をかけまわった幸せな子供時代。
だが、それは茜の早い発情期の発現で唐突に終わってしまった。
あれは十歳のときのこと、遊んでる途中、ベータの洋子と橘にもわかるくらいのフェロモンの香りが広がり、茜がその場に崩れ落ちた。
運の悪いことに近くに茜の兄がおり、兄はアルファだった。
茜のフェロモンにあてられた兄が茜に襲いかかり、洋子と橘が力の限り引き離そうとしたがびくともせず、だが叫んで騒いだことで他の使用人を呼ぶことができその行為は未遂で終わった。
しかしその事件の衝撃は強く。
茜は兄を誘惑したとして屋敷の奥の座敷牢に閉じ込められた。
「普通のオメガでも自力でフェロモンをコントロールすることは不可能なのに、発現したばっかりのオメガにできるはずはないのに。お兄様を無邪気に慕っておられた茜様がお兄様を誘惑するだなんてありえるはずないのに」
洋子は悔しそうに手を握り向かいに座ったルージュは気遣わしげにその手の上に手をかさねた。
その言葉にせずとも優しい仕草に洋子は微笑む。
「ありがとう。そうね、茜様が座敷牢に入れられてしまった話だったわね」
と、洋子は話を続けた。
それから、洋子はベータだと言うこともあり、こどもだったが茜の世話係としてつけられて食事の世話や話し相手などを勤めることになった。
橘はベータだが男ということもあり引き離されてしまったが。
茜は発現してからの家族からの仕打ちがショックだったのか痛々しいほど以前の活発さはなりをひそめ、しずかにぼんやりしていることが多くなった。
洋子が一生懸命話しかけると微笑んでくれることもあったが、前のように声をあげて笑うことはもうなかった。
半地下になっている座敷牢の奥に明かり取りの窓がある。
そこは、庭師の手によって窓が外側から毎日開けられ空気を入れ替えられている。
そしていつしかその窓の向こうに季節の花の鉢植えが置かれるようになり、そして、毎日季節の花が一輪ずつ窓の格子の間から落とされるようになった。それを花瓶に生けることが洋子の新たな日課に追加された。
茜は空いた時間に明かりとりの窓から見える花の鉢を見上げたり、窓から落とされた花を愛おしげに見つめた。洋子が花瓶に飾った花を楽しそうに眺めているときもあった。
茜は家庭教師をつけられ、将来優秀なアルファに政略で嫁ぐことが出来るように様々なことを学ばされていた。
そして、屋敷の奥の座敷牢でオメガとしての教育を受け、茜は16才になった。
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