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第4話
翌日、まだ遥のヒートは収まらなかった。それでも湊は仕事に出なければいけない。昨日は特別休みをとってくれたらしい。
「遥くん、薬はちゃんと飲んで。何かあったら、連絡するんだよ」
ぼんやりとした頭で、遥は湊の言葉を理解する。そんなことより遥の頭の中は湊でいっぱいだ。
「せんせ、ぎゅってして」
両腕を湊の方へ差し出す。けれど湊はそれを無視した。「ごめんね」とだけ謝られる。遥は昨日から湊に素っ気なく扱われて、泣きそうだった。それでも今泣いたら湊に迷惑をかけるから、と目をぎゅっと瞑って耐える。
「せんせ」
それでも湊のいない家は広く、寂しかった。昨日同様怠いからだを引きずって、客間を出る。湊の気配が残っていないか、ふらふらと家の中を彷徨った。行き着いたのは湊の部屋だった。
「せんせいのへや……」
勝手に入ったら怒られるだろうか。でもこの中には湊の気配のするものがあるのだと思うと、寂しさが勝った。ドアノブを回す。
仕事の資料の積まれた机、寝起きのまま乱れたベッド、中途半端に開いたクローゼット。
ベッドに潜ったら怒られるだろう。もしかしたらもう主治医をしてくれないかもしれない。遥はクローゼットにのろのろと向かった。
「せんせいのにおいがする」
ハンガーにかかっていたよく見るジャケットを手にとる。胸がぎゅっとなった。はじめて足りなかったものが満たされた気分だ。皺が寄ることなんて思いつきもせず、遥はジャケットを抱きしめた。
「はふ」
それ以外も湊の服を、手の届く限り集めて、その中心に埋もれてしまう。大好きな、安心するにおいだ。嗅いでいると安心するのと同時に、からだが熱くなった。熱は下半身に集まるばかりで、逃げる気配がない。
「だめ、せんせいに嫌われちゃうから」
太もも同士をもじもじと擦り合わせて、何とか気を紛らわせようとしていた。そんなじりじりとした時間が遅々として進んでいく。
昼に湊が戻ってきたときには、遥は湊の部屋のクローゼットの中で眠っていた。
「これはまた、盛大に巣作りしてくれたようで」
遥を起こして客間に返そうか、と湊は考えた。けれど室内は遥のにおいで充満していて、湊の理性もぐらつきそうだ。そっとその場を離れることにした。
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