4 / 6

第4話

 翌日、まだ遥のヒートは収まらなかった。それでも湊は仕事に出なければいけない。昨日は特別休みをとってくれたらしい。 「遥くん、薬はちゃんと飲んで。何かあったら、連絡するんだよ」  ぼんやりとした頭で、遥は湊の言葉を理解する。そんなことより遥の頭の中は湊でいっぱいだ。 「せんせ、ぎゅってして」  両腕を湊の方へ差し出す。けれど湊はそれを無視した。「ごめんね」とだけ謝られる。遥は昨日から湊に素っ気なく扱われて、泣きそうだった。それでも今泣いたら湊に迷惑をかけるから、と目をぎゅっと瞑って耐える。 「せんせ」  それでも湊のいない家は広く、寂しかった。昨日同様怠いからだを引きずって、客間を出る。湊の気配が残っていないか、ふらふらと家の中を彷徨った。行き着いたのは湊の部屋だった。 「せんせいのへや……」  勝手に入ったら怒られるだろうか。でもこの中には湊の気配のするものがあるのだと思うと、寂しさが勝った。ドアノブを回す。  仕事の資料の積まれた机、寝起きのまま乱れたベッド、中途半端に開いたクローゼット。  ベッドに潜ったら怒られるだろう。もしかしたらもう主治医をしてくれないかもしれない。遥はクローゼットにのろのろと向かった。 「せんせいのにおいがする」  ハンガーにかかっていたよく見るジャケットを手にとる。胸がぎゅっとなった。はじめて足りなかったものが満たされた気分だ。皺が寄ることなんて思いつきもせず、遥はジャケットを抱きしめた。 「はふ」  それ以外も湊の服を、手の届く限り集めて、その中心に埋もれてしまう。大好きな、安心するにおいだ。嗅いでいると安心するのと同時に、からだが熱くなった。熱は下半身に集まるばかりで、逃げる気配がない。 「だめ、せんせいに嫌われちゃうから」  太もも同士をもじもじと擦り合わせて、何とか気を紛らわせようとしていた。そんなじりじりとした時間が遅々として進んでいく。  昼に湊が戻ってきたときには、遥は湊の部屋のクローゼットの中で眠っていた。 「これはまた、盛大に巣作りしてくれたようで」  遥を起こして客間に返そうか、と湊は考えた。けれど室内は遥のにおいで充満していて、湊の理性もぐらつきそうだ。そっとその場を離れることにした。

ともだちにシェアしよう!