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第5話
「──」
遠くで湊の話し声が聞こえる。誰と喋っているのだろうか。
薄暗い室内で聞き耳を立てようと寝返りを打つと、まだからだは熱っぽく、怠かった。からだの下で湊の服がくしゃ、とよれる感触がして、遥は今湊のクローゼットの中にいることに気付いた。
「あ」
きっとこれはもう湊にばれている。不在の間に勝手に部屋に入り、その上部屋を散らかしたことを、湊は怒っているだろうか。そうしたら、はじまったばかりのここでの生活も終わりだ。誰か親戚の人のところに連れて行かれてしまう。
「せんせぇ」
これ以上迷惑はかけないから、一緒にいて欲しい。そう思うのだけれど、周囲の湊の服のにおいを嗅ぐと、頭がくらくらして、下着の中に熱が溜まる。
「ふ」
もじもじと脚を動かす。下着はもうべたべたと汚れているような気がする。嫌な感触があった。
あんなにこれ以上は迷惑をかけない、と思っていたのに、今はもう湊に触って欲しくて仕方がない。「せんせぇ」と熱っぽく湊を呼ぶ。キスして、触って、好きと言って欲しい。
「はあ」
熱っぽい溜息を吐いたとき、部屋の扉が開いた。立っていたのは湊だった。
「遥くん、大丈夫?」
遥が会いたくて仕方のなかった湊が目の前にいる。からだは相変わらず熱っぽさがあるけれど、湊がいるだけでふくふくと多幸感が溢れてくる。
「せんせ、ぎゅってして」
これで何度目かになる、遥は両腕を湊に差し出した。
湊の方はばつの悪い表情をして、室内に入ってくる。ゆっくりと遥に近付いてくる。そしてぐちゃぐちゃに散らかしたクローゼットを見て、溜め息をひとつ吐いた。
「随分と盛大に巣作りしてくれたみたいで」
呆れているのだろうか。
「あ、ごめんなさい」
項垂れた遥が謝ると、湊は穏やかな表情で遥の頭を撫でた。
「仕方ないよ、そういう性質だから」
そう言って、湊は遥の華奢なからだを抱え上げる。「え、え」と戸惑う遥をあやすように、湊は揺すった。
「さっき君のお母さんに連絡したよ。君の現状を伝えた」
やっぱり他の親戚の家に預けられるのだろうか。遥はもうおかしくなりそうな程湊が好きなのに、離れ離れはつら過ぎる。
話はまだ続いた。
「僕の方の事情も伝えた。上手くコントロールのできていないオメガのフェロモンにあてられ続けるのも、理性が保たない、って」
いつの間にか、遥は湊のベッドに寝かされていた。湊が遥の細い首すじに顔をうずめる。すん、と鼻を鳴らした。
「せんせ?」
間近に湊のからだがあって、遥はどきどきする。もうどこにも行かないように、おずおずと手を伸ばして、その袖にしがみついた。
「あと、明日の休みをとった」
それはどういう意味だろう。
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