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第6話 高校時代〜トイレで〜

あの一件以降、俺へのいじめは苛烈さを増した。これまでの嫌がらせとは比較にならない、陰湿ないじめが始まったのだ。 あの後大人から何も言われなかったところをみると、伊藤も中島も学校側に話して事を大きくするつもりは無いようだ。 しかし彼らが誰にも言わなかったわけではない。 翌朝登校すると教室内の空気が一変していた。 それまで俺へのいじめに対し見てみぬふりをしていた輩がこちらを見てヒソヒソ言うようになった。 「こわい」「ヤバすぎ」「見かけによらず…」等々。 元々女子生徒は俺のことを無害で気にかける必要のない奴と思っていたと思う。それが一躍学校で女を襲う変態野郎に格上げだ。 男子生徒はというと、気持ち悪い下卑た笑いで俺を嘲っている。 怖がられたり笑われる程度ならまだよかった。 問題は、これまで教室内など人目の多い場所で行われていたいじめ行為が人目のない場所に移ったことだ。 教室内で行われるいじめは単に悪口を言われたり、紙屑を机に入れられたり、小突かれたりする程度だった。こんなのは黙って我慢していればいい。 それが人の来ない棟のトイレや鍵のかかる資料室、美術準備室などに場所が移ると今度は肉体的な暴力がエスカレートし、更には性的な悪戯までされるようになった。 「調子に乗るなよこの強姦魔!」 主犯格グループに無理やり人の来ないトイレに引き摺られ、床に突き倒される。 うつ伏せになったところ容赦なく腹を蹴り上げられる。   「うぐっ」  「お前みたいなのがいるから教室内の雰囲気が悪くて仕方ねーよ!」 「オラなんとかいえ!」 2~3人に蹴られる。 体力に自信がない俺はなるべく丸まってダメージを受けないようにする他に抵抗の余地はなかった。 リーダーは中島だったが、あいつはあれ以来俺に直接手を下すことはしなくなっていた。 代わりに子分ポジションのバスケ部員数名が俺をいたぶっている。 「下脱がせろ」 後ろの方でつまらなそうに眺めていた中島が唐突に言った。 俺はその言葉にギクリとした。 「嘘だろ…冗談よせよ」 中島は静かに「井上、やれ」と重ねて言った。 名指しされた井上がベルトを掴む。他の奴らは嫌がって暴れる俺を羽交い締めにしてくる。 「女みたいな面してっけど本当に付いてるのか確認してやるよ」 ニヤニヤ笑いを浮かべる井上によってズルッと下着ごと引き下ろされた。トイレの冷たい床に尻が触れて鳥肌が立つ。 「クソ!やめろ、返せよ!」 「うわ、付いてたわ!」 「え、なにげにデカくね?さすがゴーカン魔だけあるな!」 変なテンションになってはしゃぐ井上たちに対し中島は表情も変えずに「制服と下着は女子トイレに投げ入れとけ」と言って出て行った。 「うっそマジ」 「ウケる、最高じゃん」 笑いながら残りのメンツも俺のスラックスと下着を持って出て行く。 下半身丸出しのまま放置された俺はショックでしばらく動けなかった。 人気のないトイレとはいえ、このまま女子トイレに取りに行ってもし女子生徒に出くわしたら? それでなくとも強姦魔の冤罪を着せられているのだ、下半身丸出しで女子トイレにいたなんてバレたら目も当てられない。悔しいがこの状況で俺は涙目になりかけてた。 「クソ!」 急がないと… 俺は仕方なく腰を上げた。その時ギッと音がして男子トイレのドアが開いた。 俺は反射的にシャツを両手で引っ張って股間を隠した。 入ってきたのは小山田だった。 俺の情けない姿に一瞥をくれて「何してる」と訊いてくる。 こんな姿を見られたことも、こんな事をされてなす術がないことも恥ずかしくて顔が熱くなる。 「せ、制服脱がされて…女子トイレに…投げられ…」 羞恥で声がうわずる。後半涙声になってたことは認めたくなかった。 小山田は一瞬目を見張ったが何も言わずに出ていき、女子トイレから俺の服を取ってきてくれた。 「え、なんで…」 俺は混乱した。事実とは違うが、表面上は俺が小山田の彼女に手を出そうとしたってことになってるのに。 小山田はそのまま無言で去った。 「ありがとう…」 俺は誰もいないトイレで呟いた。

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