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第9話 高校時代〜小山田への弁明〜

身支度を整えて美術準備室を出る頃には日が暮れかけていた。 廊下に出ると予想外の人物の後ろ姿を見つけた。 小山田じゃないか。 嫌な汗をかいた直後で身体もだるかったが、教室では話ができない上に小山田は放課後部活に行ってしまうので話す機会は今を逃せばいつになるかわからない。 俺は迷った末駆け寄りながら声をかけた。 「待って小山田!」 呼ばれて小山田は振り返った。中島もデカいが小山田はもっとデカくてたぶん190cm近くある。 短い髪を明るめの茶髪に染めていて、眉が太く鼻筋が通っていて男らしい顔立ちのイケメンだ。 愛想は悪いがバスケ部の彼に黄色い声援をあげる女子は多い。 「なんだ」 「あの、この前お礼言いそびれたから…ありがとうな」 「そんなことか」 小山田は興味無さそうにすぐまた後ろを向いて去ろうとする。 俺は咄嗟に小山田の肘を掴んだ。 「あ、待って!その、えーっと…伊藤のことだけど俺やってないから。襲ったりしてない」 「……」 「それだけ言いたくてさ」 と言って俺は手を離した。 小山田は無表情のまま「もう伊藤と別れたから俺は関係ねえよ」と言った。 「え、別れたの?」 「結構前に終わってた」 「そうだったんだ……」 「だから別にお前があいつを襲ったんだとしても俺は何も言うことはない」 なんと言って良いか分からず小山田の顔を見ていたら、訝しげに太い眉が顰められる。 「なんだ?お前、唇から血が出てるぞ」 そう言って小山田は俺の顎を持ち上げ、下唇を親指でなぞった。 「!?」 なぜか腰椎の辺りがゾクゾクと痺れるような感じがした。 小山田の視線がじっと俺の唇に注がれている。 俺はその瞬間、自分が彼の友人の名前を呼び唇を噛みながら射精したことを思い出してハッとした。 「お、俺それ言いたかっただけだから!帰るわ!」 真っ赤になった顔を背けて俺は走って逃げた。 靴箱まで来て座り込む。 なんで俺今…… ? 頭を抱えた。どうしたんだ?男の前で脱がされてオナニーまでさせられたから性癖おかしくなったんかな? 「どうかしてるよ…」 その日家に帰ってから結局USBメモリを返してもらいそびれたことに気付いた。 これじゃなんのためにあいつらの前であんなことをしたのかわからないじゃないか。 むしゃくしゃする。 スマホを取り出して例の掲示板を開いた。 “明日必ず返せよ“ それだけ書いてとっととブラウザを閉じた。

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