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第16話 生き返ったら、死んだことになっていた

俺は森の中にいた。ひんやりしていてすごく静かで…小川が流れてる。 すると向こうから女の人がやってきた。 目を凝らしても顔はよく見えない。 近くに寄っても顔がわからなかった。 その女の人は、なにか言ってるようだったけど声が聞こえない。 あれ?なんでだろう。 そう思ったとき、女の人が俺の手を取ってぐっと引っ張った。 バランスを崩して倒れる、と思った瞬間俺は目を覚ました。 そして見たことのない部屋にいた。 どこだここ? 「あー…」 試しに声を出すと、掠れた声が出た。 耳はちゃんと聞こえてる。 そうだ、確か俺はトラックにはねられて…!! 完全に死んだと直感した所までは記憶がある。 手を握って開く。問題なく動く。 「生きてるじゃん」 上体を起こしてみようとしたが、身体に力が入らず起き上がれなかった。 腕には医療機器からの管が繋がれている。 モニターには心拍数や、よくわからない数値が並んでいた。 辺りを見回すとソファやテーブルが置いてあり、病院というよりは誰かの家の寝室のように見えた。 シンプルだが高級感のある和モダンテイストの家具で揃えられている。 今寝ているベッドは濃紺のベッドカバーが掛けられていた。 俺は自分の身体を確かめる。 前開きのグレーの作務衣を着せられている。 どれくらいの間意識が無かったのかわからないが、おそらく脱ぎ着させやすいからだろう。 胸元から服の中を覗いてみたところ、目立った傷や打撲の跡は見当たらなかった。 「どういうことだ…?かなり派手に轢かれたはずなのに。……あ。まさかあれか?!異世界転生ってやつ!?」 ラノベによくある、生まれ変わる前に話す神様みたいなやつかなさっきの森の女の人。 でも何言ってるか全然聞こえなかったぞ。 ま、転生ではないことは確かだ。 だってこの内装はどう見ても現代日本のものだったから。 じゃあこれ夢か?死にかけて三途の川渡っちゃった?? むしろ、轢かれたのが夢だった? いやそれはないか…。 夢ならどれだけ良いかわからない。 あ、そうだ。俺逃げちゃったからUSBメモリは中島に壊されちゃったのかな。 放送部のコンテスト、もう間に合わないかな… そうやって考えているとこめかみを伝って水滴が目から滑り落ちた。 あれ?俺泣いてるのか。 「起きたか」 いきなり男の声がしてギョッとする。 「うわ、びっくりした!」 ドアを開けて入ってきたのは40歳前後の細身で目つきの鋭い男だった。 医師だろうか?白衣は来ておらず、チャコールグレーのシャツに黒いスラックスという姿だった。 「おはよう。驚かせてすまない、私は賀茂正臣(かも まさおみ)という者だ。君は自分が誰かわかるか?」 「あ、はい。大門亜巳っていいます。」 「記憶はどこまで残ってる?」 「車に轢かれて死んだと思ってました。すいませんここはどこですか?病院じゃないですよね」 「ここは私の家だ」 「あ…そうなんですか…その、助けてもらったんでしょうけど、俺はなんでここにいるんです?ばあちゃんは…」 俺は両親とも亡くしていて祖母の家で暮らしていた。 「きちんと説明するのには時間がかかる。今はまず体調を整えることに専念してくれ。長い間寝たきりだったからかなり体力が落ちているはずだ」 「え、でも…なんにもわからずにここに居られないですよ!家に帰らせてください!」 「家にはもう帰れない」 「え?」 「君は2016年にトラックに轢かれて更に乗用車の下敷きになり外傷性窒息のため一度心停止状態になった。蘇生し低体温療法を行って回復したが、肉体的な傷が癒えても目覚めず眠り続けていた。今は2024年の6月だ」 男はざっと俺の事故後の経緯を伝えてくれた。 しかし、年号がおかしなことになっている。 「2024年…?え、それじゃあ事故から8年も経ってるっていうの!?」 「そうだ。君は丸8年間眠っていた」 「そんな…まさか…」 俺はいきなりこんなことを聞かされてパニックになりそうだった。 「あ、そ、それでばあちゃんは!?なんで俺は病院でも家でもなくここにいるんです?」 「なぜここに居るかというと、君は戸籍上は死んだことになっているからだ」 え………? それを聞いて、元々体力の落ちていた俺はショックで気を失ってしまった。

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