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第17話 賀茂邸での新しい日常
次に俺が目を覚ましたのは、翌朝になってからだった。
体力が落ちてるからか横になっているだけなのに常にすごく眠い。
賀茂さんは俺が過去の話を聞いて気絶してしまったので、それから何も教えてくれなくなった。
「君の身体が回復して、前の体重くらいまで戻ったら全部話すよ」
そう言って口を噤んだ。
それから俺はこの家でリハビリに励んだ。
最初は眠くて眠くて、一日の中で起きていられるのは合わせても2時間くらいだった。
それが、起きている時間が伸び、目覚めて1週間後には経口で食事を摂るようになった。
元から細身だった俺は、さらに痩せてガリガリになっていた。
最初は食べ物も受け付けなくて、流動食でも吐いたりしていた。
それでも徐々に回復し、今ではよほど脂っこいものでなければ大体の物が食べられるようになった。
歩けるようになるまでは2ヶ月以上かかった。
そのためしばらくは車椅子生活だった。
普通は3~5週間寝たきりになるだけで50%筋力が低下するんだそうだ。
だけど、8年寝たきりだったはずの俺はそこまで酷い状態ではなかった。
眠っている間にどういう技術が施されていたのかわからないが、賀茂さん曰く一般人の知らないことは世の中にたくさんあるんだそうだ。
たしかに今のこの特殊な状況を考えると、何があっても不思議ではないのかもしれない。
俺はもうSFの世界だとでも思って割り切ることにした。
元々細かいことは気にしない大雑把なO型だったしな。
たくさん寝て、食べたらもうどうでも良くなってきた。
体調が大体戻って来たのは俺が久しぶりに目覚めてから4ヶ月後くらいだった。
その頃にはもう家の中を自由に歩いて廻れた。
外に出るのは禁止はされていなかったものの、特殊な俺の事情(戸籍上死亡)を考えると無闇に出歩かない方がよさそうだった。
そもそも回復したとはいえ体調が万全ではなかったので、庭に出て軽く散歩するくらいが関の山だった。
賀茂さんの自宅は東京都内の御殿山に位置し、庭付き木造2階建ての豪邸だった。
全体的に和風な造りで、リビングの天井は格天井 ――寺などによく見られる角材を格子状に組んだ天井――という個人宅としては珍しいものだった。床は天然木で、10人以上座れる革張りのソファがL字型に配置されている。家具類は基本的に洋式でシンプルなものが採用されていた。
こんな部屋、映画でしか見たことがないけど今はここが自分の住処なのだった。
外出はほとんどしなかったが、賀茂さんが居るときにだけ一緒に近所を散歩させてもらうことがある。
周りは閑静な住宅街で、同じような規模の邸宅が並んでいる。歩いているのも品の良さそうな人が多かった。
賀茂さんに仕事は何をしているのかと聞いたことがあった。
「君が考えているようなサラリーマンではないとだけ言っておくよ。ある程度資産があったら、あとは働かなくてもお金は入ってくるんだ」
所謂不労所得ってやつだ。
とはいえ賀茂さんは毎日朝出かけて夜に帰ってくるのだった。
ただし、夜といっても17~18時には帰宅して俺と一緒に夕食をとる。
必要なものがあったら賀茂さんに言えば何でも揃えてくれる。
本でも、DVDでも、ゲームでも。
NetflixやU-Nextなどの動画配信サービスの類は、テレビを付けたら既に俺の思いつく限りは全部入っていた。
洋服や身の回りの品はネットで注文したり、ネットで買えないものは頼めば賀茂さんが買ってきてくれた。
でも洋服はあらかじめ賀茂さんが揃えてくれていたものがたくさんクローゼットに入っていたから、買い足すことはほとんどなかった。あらかじめ用意された服は下着から部屋着に至るまで、どれも高校生ではとても買えないような高級品ばかりだった。
俺は朝起きて、賀茂さんと朝食をとり、一人になると眠っていた8年間のことがわかるような本を読んだり、動画を見たりした。
映画も、知らないうちにシリーズものの新しいのが出ていたり、終わってしまっていたりしていて変な感じがした。
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