18 / 59
第18話 事の顛末〜サイオウの子孫?〜
ある晴れた日の朝。
いつものように賀茂さんと朝食を食べていると出し抜けに言われた。
「今日、君が知りたがっていたことを全部話すよ」
「え!本当ですか」
「ああ、ここ最近の君は顔色も良いし、体重もほとんど戻ったね?」
「はい。もう大丈夫です。むしろご飯が美味しくて前よりちょっと増えたくらいです」
食べ終わってからリビングのソファに座るよう言われた。
コーヒーを淹れて二人ともソファに座る。
「何から話せばいいかな」
「えーっと…俺が死んだことになってるっていうのが一番気になります」
「そうだね。じゃあそこからだ」
聞いた話をまとめるとこうだ。
まず、俺は轢かれて一度心停止になった。
すぐに追いついた中島が救急車を呼び、電話口の指示に従って人工呼吸を施した。
それによって救急車が駆けつけた時には俺は息を吹き返していた。
その後は病院で蘇生後脳症を防ぐため、低体温療法が取られた。
ここまではまあ普通の対応だ。
が、ここからはちょっと異常。
「運び込まれた病院はそもそも私達一族の息がかかった病院でね。ちょっと細工をしてもらった」
つまり、生きている俺の死亡診断書を作成してもらったそうだ。
俺は死んだということになり、俺の身体はその後別人の名前が付けられて秘密裏に治療が続けられた。
その後、遺体なしで葬儀も行われたという。
「でも、そんなことばあちゃんが許すわけ…」
「そこがワケありでね。実は…非常に言いにくいが君のお祖母さんは君の実の祖母じゃないんだ」
「は…?」
「これには君の祖先の話が絡んでくる」
「え、どういうことですか?俺のばあちゃんはばあちゃんじゃないの?え?」
もうさっぱりわけがわからない。
ばあちゃんもこの話に関係あるっていうの?
「君の祖母は私の…賀茂の分家筋の系統の人間なんだ。それで、君が小さいときから君を守る役割をしていた」
「俺を…守る…???」
「そう。君は実は、斎王の血を引く唯一の子孫なんだ」
「サイオウ?」
え?やっぱ異世界転生的な話??魔王みたいな??
「そう、斎王。ここからはちょっと込み入った話になるが…ところで君は京都に行ったことはあるか?」
「えっと、はい。中学の修学旅行で行きましたけど」
「上賀茂神社 や下賀茂神社 って行った?」
「えーっと、あんまり覚えてないですけど…多分行ってないかな。初めて聞きました」
「そうか。この2つの神社は私の一族、賀茂にゆかりの神社なんだ」
「へー…」
なんで神社の話を聞かされてるんだろう…もうわけわかんないよ。
「下賀茂神社の祭神は賀茂建角身命 と、その娘の玉依媛命 だ。その子孫が我々賀茂氏とされている」
「え。神様の子孫ってこと?すっげ…」
「まあ、こういうのはいろいろと誇張やハッタリもあるからね。話半分に聞いてくれ。とにかく、その賀茂神社を取り仕切ってるのが私達一族なんだ」
「そうですか。それでサイオウっていうのは?」
「斎王というのは、下賀茂神社に巫女として奉仕した内親王、つまり天皇の皇女を指す。」
「あー、巫女さんならわかります。つまり天皇の娘さんで巫女なのがサイオウってことかあ」
「斎王は本来未婚で仕えていて、退いた後も大体は結婚せずに静かに一生を終える。しかし、密かに子をなした斎王がいたんだ。そしてその血が脈々と受け継がれて、君に繋がっているというわけさ」
「はあ…」
急にそう言われても返答に困る。
「君のお母さんは早くに亡くなっているよね」
「はい。俺が2歳のときに亡くなったと聞いてます」
「そう。それで、斎王の血が流れているのが君だけになってしまったんだ」
元々父親は誰かも分からず、母が一人で俺を育てていた。
しかしその母も俺が幼いうちに亡くなり、祖母に引き取られたのだ。
「訳あってこの血を絶やすわけには行かないんだ。それで我々は君のことを守るため、一族から年齢の適したものを選んで祖母として君を引き取らせることになった」
「なるほど…じゃあつまり僕には全く身寄りがないということなんですね」
「残念だが…そうなるね」
話が日本の神社や神話にまで絡んでいて戸惑うが、とにかく俺は戸籍上はもう存在しなくて、しかも天涯孤独ってことだ。
冷めたコーヒーカップを眺めながら俺が感傷に浸ってぼーっとしていると、賀茂さんは更に続けた。
「それで、ショックを受けているところに悪いんだが早速君に頼みがある」
「え?何ですか。俺にできること?」
「ああ。君にしか出来ないことだ」
「はぁ、助けてもらった上こんな贅沢な暮らしをさせてもらってますし何でもしますけど…」
「君にはこれから女王様になってもらう」
「は?ジョオウサマ?また斎王的なやつですか??巫女とか??」
「いや、そうじゃなくてSMの女王様だ」
「ブッ!!えすえむ…!?!?!?」
今まで神社の話を語っていた上品な顔で賀茂さんが急におかしな言葉を出したので俺はコーヒーを噴き出してしまった。
「す、すいませんこぼしちゃった!」
「ああ、大丈夫だよ。ここは拭いておくから君は服を着替えて来なさい」
「はい…」
俺はコーヒーの染みを手洗いし、新しい服に着替えた。
ジャブジャブ手洗いしながら反芻する。
神様とか巫女とかより断然びっくりしたよ!
賀茂さんがSMの女王様なんて言うから!
洗面台の鏡を見ると、女顔の情けない男がそこにいた。
眠ってる間何をされたのかわからないけど、見た目は16歳のときのままだった。
「はぁ…俺どうなっちゃうんだよ?」
ともだちにシェアしよう!