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第21話 女王様のレッスン(1)

「あのぅ…ところで、いくら個室とはいえ、ここでこんな話しちゃって大丈夫なんですか」 「ああ、問題ない。このホテルのオーナーとは旧知の仲だからね」 「え、外資系ですよねこのホテル」 「うん、うちのお客さんなんだ」 ええええええ 聞かなきゃよかった…… そして俺たちは食事を終えると歩いて家に帰った。 その日は俺がショックを受けているからということで、何もせず普段どおり過ごそうということになった。 翌日からは”女王様”になる特訓が始まると言われた。 そんなこと言われたらもう、夜寝られるわけがなかった。 俺はまんじりともせずにベッドで何度も寝返りをうった。 次の日も、賀茂さんは朝食後に出掛けることはなかった。 「しばらく君の指導のために家にいるから安心して」 安心なんてできるはずもない。 「さて、それではまずレッスン室へ行こう」 ピアノ教室に行くみたいに言わないで… 俺は渋々後を付いていく。この家は大体の部屋を把握していると思っていたけど、俺の知らない部屋があるのかな? 賀茂さんの書斎に入る。俺が普段立ち入ることのないエリアだ。 ここでレッスンするの? すると賀茂さんは書棚の中から一冊の本を取り出し、その書棚の奥に手を入れて何やら操作している。 ピッピッピ、と電子音がしたかと思うと、ガタンと音を立てて書棚が扉のようにずれて開き、部屋が現れた。 「隠し扉!?うっそ!マジで映画みたいじゃん!!」 「本当に好きなんだねこういうの」 俺はすっかり興奮してしまった。 すげーすげー! 後で俺も開け方教えてもらおうっと。 キョロキョロと辺りを見回しながら部屋に入る。 この部屋だけは全て洋風の家具で揃えてあった。 「ホテルみたいな部屋ですね」 「そうだ。よくわかったね。君がお客さんの相手をするのはホテルが多くなるから感覚をつかみやすいようにしている」 ソファにテーブル、アーチ型のフロアライト。 そして枕のたくさん並んだ大きなベッドと足元のオットマン。 床は毛足の短いダークブラウンのカーペットが一面に敷かれている。 隠し部屋のため窓は無く、間接照明が柔らかく落ち着いた雰囲気を醸し出していた。 「クローゼットを見てみるといい」 「はい」 俺は部屋に入ってすぐのクローゼットを開けて絶句した。 「これって」 「君が着るコスチュームだ」 めまいがした。 革製の、隠れるところがほとんどないような服。これは服?というのか?(後で賀茂さんに聞いたらボンデージというらしい) ピンクやパープルや黒の、レース使いの繊細なベビードール。コルセット風のガーターランジェリー。(もちろんこれらも賀茂さんに聞いた) 着たらお尻が見えそうなチャイナ服に、ショート丈でお腹が出るセーラー服。 ブラック・ウィドウみたいなライダーススーツ等々… 足元にはずらりとハイヒールやブーツが並んでいた。 俺は扉をそっと閉じた。 「どうだ?気に入りそうかな」 気に入るとかいう次元の話ではない。 いつも涼し気で上品な賀茂さんがこんなものを揃えたというのか。 しかも俺が着る想定のえっちなコスチュームだということがすごく恥ずかしかった。 俺は赤くなって俯く。 ていうか賀茂さんはなんでそんな冷静なの? 「もっとこういうのがいいってのがあったら揃えておくから何でも言ってくれ」 「は…いえ…俺よくわからないんで」 「ふむ、それもそうだな。衣装はまあいい。じゃあさっそく始めようか」 一体何が始まるんだろう。 賀茂さんは俺の手を引いて1人掛けのソファに腰掛け、その目の前に俺を向かい合わせに立たせる。 「それじゃあ手始めにまず私を誘惑してみてくれ」 は?? 「で、できませんよ。何言ってるんですか!?」 「え?できない?」 そうか…無意識にやってたのか…などとブツブツ言っている。 「それじゃあちょっと刺激して引き出すしかないか」 座っている賀茂さんが突然ぐいっと手を引いたから、俺はバランスを崩して賀茂さんの膝の上に座ってしまう。 「あ、ごめんなさい」 慌てて降りようとする俺の腰を賀茂さんが掴んで引き留めた。 「このままで」 「えっ、は、恥ずかしいんだけど」 俺は賀茂さんと対面で膝の上に座る形になる。 肩を押して離れようとするけど、腰に回された腕は力強くてびくともしない。細身に見えるが、鍛えているらしい。 俺は目のやり場に困って視線を泳がせる。 「こっちを見るんだ」 と顔に手を添えて言われ、賀茂さんの目を見る。 「君は知らない女の人の夢を見たことはないか?」

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