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第25話 翻弄される女王様

俺は一度深呼吸する。 よし!レッスンしてきた成果を見せるんだ! 賀茂さんは離れた位置で壁にもたれかかって見ている。 「Salome(サロメ)の亜巳です。今日はよろしく。それじゃあスタートしていい?坂本さん、今日はどんな風にしたいの?希望はある?」 あ、ちなみにSalomeってのは会員制倶楽部の名前ね。 まずは客の要望を訊く。 ソフトなのを好む客から、かなりハードな行為を望む客まで様々だからだ。 予約の際に一応コースは選べるようになっていて、それに応じて道具を用意して行くが、直前に気が変わる場合もあるので毎回確認するルールだ。 「俺、頑丈なんで蹴るなり殴るなり思いっきりやってほしいです!何やられても亜巳様くらい華奢な方なら死なないので!」 い、いきなりすごいこと言ってくるなぁ… 絵に描いたようなドMじゃん。 いや、だからこそ実習にぴったりなのかな? 「わかった。じゃあ思いっきりやるね。セーフワードは希望ある?無ければ勝手に決めるけど」 「うーん、じゃあ”焼きそば”にします!」 「ぶっっっ!!!」 俺はこの場にあまりにもふさわしくないワードが出てきて吹き出した。 や、焼きそばって。 「絶対なにか異常事態でもないと出てこない言葉でしょ?」 そういって坂本はにこにこしている。 「わ、わかったよ…じゃあ焼きそばね」 行為がエスカレートし過ぎたり、本当に無理だという際に予め決めた言葉を口にすることでプレイを中断する決まりだ。その言葉が「セーフワード」。 「いや」とか「やめて」なんて言葉はいやよいやよも好きのうち…というわけでSMではよく出る言葉なので、そうじゃない全く関係ない言葉を選ぶ。 それにしてもSMプレイってこんな和やかに始まるもの? もしかして俺が初めてお客相手にするの知ってて和ませようとしてくれてるのかな。 だとしたらこの坂本さんってイイやつだな。 「そしたら今からスタートするよ」 「はい!」 「じゃあ、まず服脱いで。お前、俺がこんな格好なのにお前だけ服着てるなんて犬の分際で失礼だと思わないわけ?」 「わぁ…ぞくぞくする!亜巳様みたいな清楚っぽい美人がそんな怖いこというなんて感動…♡」 「は?馬鹿なの?口動かしてないでさっさと脱ぎなよ!」 「はぁ~~もう、喋ってるだけで最高だよ…亜巳様ぁ~♡♡」 「うるさい!黙れってば!」 なんか調子狂うよ! これでいいの?俺は心配になって賀茂さんの方を見てしまう。 賀茂さんは笑いを噛み殺していた。 ほらぁ~~坂本さん変だよ。 「お前頭おかしいんじゃないの?手間かけさせんじゃねーよ。おら、脱げ!」 そう言って俺は軽く脚を蹴ってみる。 木の幹か?ってくらいがっしりしていてびくともしない。 びっくりして坂本の顔を見上げる。 これを調教って…無理じゃね? 「亜巳様、そんな可愛い顔してちゃだめですよ。襲っちゃいますよ俺」 そう言って両手を伸ばしてくる。 俺はさっと避ける。 「お、お前!馬鹿、それじゃ逆だろうが!」 完全に坂本のペースに乗せられてる。 こんなんじゃダメだ。 レッスンの成果はどうした? そうだ、例のパワー使えば良いんじゃん。 よし。 「坂本こっち見ろ!」 背伸びして坂本の顔を両手でガシッと掴むと目を無理やり合わせた。 俺は練習した通りに坂本に誘惑の念を向ける。 「はぁ…亜巳様……キスしたい…顔中舐め回したいです…」 「ばか!ダメだ。我慢だ坂本しっかりしろ!」 「ああ、亜巳様の眼が…紫色に光って来ました…」 「ちゃんと見て」 だんだん坂本の目がとろんとしてくる。 よし、かかってるかかってる。 この眼力は、相手を性的興奮状態にするだけじゃなくて命令に従わせる威力も持っている。 「坂本、服を脱げ。全部だ」 「はい、亜巳様…」 やっと素直に言うことを聞いた。 坂本は茶化さずにさっと服を脱いで全裸になった。  彼の股間を見て絶句する。 おいおいおいおい… なんだこの化物は… 股間には大蛇みたいなものがぶら下がっていた。 ひーーー、勃ってなくてこれなの? こわいよおおおお逃げたい! しかし俺は今女王様なんだ。顔に出すわけにはいかない。 「そこに座れ。おすわりだ坂本」 「ワン!」 うわー、こっちから言わなくても犬語喋り出したよ。 「よくできたな。じゃあ次はお手!」 「わんわん!」 「よし。お利口さんにはご褒美をやろう」 そう言って俺は色々な道具を入れてある革製のアタッシュケースを開いた。 どれにしようかな。 よし!これだ。 俺はパドルを手にした。ようするに、馬用の鞭だ。 打面が広いので跡が付きにくい。 坂本の目が輝いた。

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