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第36話 幽霊ごっこと思いきや鬼ごっこ
俺はソファにだらしなく凭れかかりながら中島のスケジュールを眺めていた。
「ふっ、随分ご機嫌じゃないか」
「え?なんですか?」
「鼻歌歌ってたよ。楽しそうだね」
「え!ホントですか?自分で気づいてなかった」
恥ずかしい…
賀茂さんがコーヒーを淹れて持ってきてくれた。
俺は姿勢を正して座り直す。
「中島くんのスケジュール見てるの?」
「あ…うん。どこで脅かしてやろうかなと思って」
「面白いこと考えたよね」
「ですよね!井上のときすぐにホテル行っちゃったんで今回は楽しもうと思って」
「あはは、いじめの主犯だもんね。ボッコボコにしないとね」
「そういうんじゃないけど…」
「中島くん、君が轢かれたときものすごく必死で人命救助やってたらしいよ」
「え?」
そういう細かいことまでは経歴書には載っていなかった。
「中島くんって亜巳くんのこと好きだったんじゃないの?」
「…はぁ?」
「って私は思ったね。彼の経歴を見て」
「どこがです?」
俺は賀茂さんが何を言ってるかさっぱりわからなかった。
中島の経歴って支離滅裂じゃん。
「まあ、答え合わせは本人に直接聞いてみてよ」
「え…そんなぁ、教えてくださいよ!」
「私は部外者だからこれ以上口を挟むのはやめておくよ」
「正臣さん部外者じゃないじゃん、黒幕じゃん」
賀茂さんは笑いながらコーヒーカップを持って書斎へ行ってしまった。
なんだよ。俺をからかってるのか?
賀茂さんの話は考えてもわからないから忘れることにした。
俺は幽霊ごっこを楽しむことに集中するんだ!
そしてある日の午後、スケジュールの中から人が多くて"幽霊"がまぎれやすい撮影場所に中島が現れるのを狙って俺は張っていた。
「来た!」
久しぶりに見る中島は、当然だが大人になっていてしかも芸能人らしく垢抜けていた。
サングラスをかけているが、姿格好ですぐにわかった。
俺も一応バレることはないと思いつつキャップを被って伊達メガネをし、顔をわかりにくくしていた。
柱の陰から様子を見つつ、目の前を横切るタイミングを見計らう。
中島はマネージャーらしき人物と話し込んでいる。
俺は緊張して手に汗をかいていた。
絶対バレるわけない……よし、行くか。
俺は中島とマネージャーの話しているすぐ横を通り過ぎた。
我慢できずにチラッと一瞬だけ中島の顔を見た。
目が合った――と、サングラス越しなのにわかるくらいに中島の視線を感じた。
あ…やば…
俺はそのまま駆け出した。
こういうときのために備えて一応人混みを選んでおいてよかった。
中島は走って追いかけてきていた。
ヤバい、バレた?!
サングラスをかけたデカい男が人混みを走っているのは結構目立った。
そして、一人が「あれ中島くんじゃない?」
と言ったのをきっかけに、正体がバレた中島の周りに女性の人だかりができてしまいこちらにこれ以上走ってこれなくなった。
助かった!
俺は中島が立ち止まるのを見届けて、そのまま走って逃げた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
大きな通りまで出て、タクシーに飛び乗る。
「なんでバレたんだよ…くそっ」
せっかく何回かに分けてじわじわ幽霊として怖がらせてやろうと思ってたのに。
こんなすぐバレるとか俺アホじゃねえの…
手で目元を覆う。最悪だ。
これ、下手したら本番にも支障あるんじゃないか?
このまま井上に誘わせたら、警戒されそう。
くそくそくそ!
なんでバレるんだよ、俺キャップ被って眼鏡してたんだぞ。
死んでから8年も経ってるんだぞ。
家に帰って賀茂さんに話したら、「ほらね。やっぱり」とニヤニヤしながら言ってる。
何もかもが最悪だ…
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