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第37話 中島隼斗【職業:俳優、下僕?】
約束の日、井上にまず待ち合わせ場所に行ってもらった。
ここからは井上の時と同様に、一軒目を出る時適当な理由を付けて二軒目の店に誘ってもらい、俺たちの待つホテルへ誘導してもらうつもりだった。
しかし待ち合わせの時点で予定外の連絡が入った。
メッセージのやり取りでは済まないと判断した井上から電話が来たのだ。
かなり焦った様子に、こちらも緊張が走る。
「今待ち合わせ場所で、あと20分で時間なんだけど中島からメッセが入って」
「なんだ?どうした」
「今日会うなら中島の自宅マンションにしたいって…じゃなきゃ会わないって言ってるんですけどどうしましょう?」
なんだと…?やけに大人しくこちらの誘いに乗ったと思ったら、直前にこれか。
「上と相談して折り返す。お前はそのまま待機しろ」
「わかりました」
俺はすぐに賀茂さんに電話をかけ事情を説明した。中止になるかもしれないと思った俺の思惑に反して賀茂さんは焦った様子もなく言った。
「行って来なよ」
「え!そんな…いいんですか?」
「いいんじゃない?皆んなで行ったらいいよ」
ええ…?
友達のうち行って来なよみたいに言うことかぁ?
それでも俺が逆らえる立場ではないので了承する。
「わかりました…」
そしてなぜか、計画は狂いっぱなしのまま俺たちは中島のマンションに乗り込んだのだった。
とりあえずエントランスのオートロックを開けてもらうまでは俺と坂本は離れてモニターに映らないようにしていた。
そして部屋のドアの前に井上が立つと、俺と坂本はドアの影、壁際に背中を付けて覗き穴から見えないように隠れた。
井上に頷いて見せ、呼び鈴を押させる。
人の気配がして、ドアが開いた。
「いらっしゃい」
聞き覚えのある声がした。
井上が中に入る瞬間、坂本がドアの裏から腕を伸ばして隙間から体を半分滑り込ませた。
「!?」
突然現れた大男に中島は驚いていた。
「坂本…さん?」
「どうも、初めまして」
「あ、どうも…驚いたな。でも初めましてではないですよ。朝の番組で一度会ってます、忘れられちゃいました?」
中島は驚いていたが、それは顔見知りの坂本が現れたからであって、井上が1人じゃないことに関しては想定済みだったようだ。
「立ち話もなんなんで中入って下さい」
中島は2人に向かって言った。そこで大きな身体に隠れていた俺も姿を見せた。
「俺も入っていいよね?」
俺の姿を見た瞬間、中島は息を飲んだ。
「大門……」
そして靴を履かずに廊下に出てきたかと思うと中島は俺のことを思い切り抱きしめた。
「大門!やっぱり生きてたんだな!良かった…良かった!!」
いきなりぎゅうぎゅう抱きしめられ、俺はビックリして固まった。
今回の中島に関する計画は何から何までもうめちゃくちゃとしか言いようがなかった。
俺はこの男を操るどころか、こいつに振り回されまくっていた。
こんなはずじゃなかったのに!なんでこうなるんだよ!?
やっぱり生きてたってどういうことだ?
そして俺たちは中島のマンションのリビングに招き入れられた。
いかにも芸能人が住んでいそうな高層マンションで、窓から東京タワーが綺麗に見えていた。
「すっげー。芸能人って本当にこういうとこ住んでるんだな」
俺はもう緊張の糸が途切れてしまい、素で感心してしまった。
一人暮らしのリビングとしては広すぎるくらいの面積がある。
坂本が小声で嗜めてくる。
「亜巳様、緊張感な過ぎですよ!何しに来たと思ってんすか」
「あ、悪い。そうだった」
「拘束しますか?」
「え?うーん…」
俺たちがひそひそ話していると中島が言う
「何コソコソ話してるんだ?」
「え!?お、おう。それはな、今からお前を拘束する!!」
「…………どうぞ?」
俺はまたしても驚かされる。
「え!?なんつった??どうぞ!?」
「うん。俺、お前に何されても文句言える立場じゃないから」
「な…っ、何を今更っ」
「大門、本当にあのときは悪かった!」
とうとう中島は俺の催眠なんて無しで自ら土下座までし始めた。
俺たちは3人ともポカンと口を開けてそれを見ていた。
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