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第38話 中島くんは元から下僕
俺は、というか俺と坂本と井上は土下座する中島を前にして思考停止していた。
これ…どうすんだ?
チラッと坂本を見ると坂本も困惑気味にこちらを見ていた。
とりあえずセオリー通り縛るか…
坂本に向かって顎をしゃくって見せる。坂本はポケットに入れていた革製の手錠を取り出して中島の手を拘束した。
手首に傷が付かない、内側にファーが張ってある物だ。
俺が事前に坂本にファー付きの手錠を使うよう指定して、プレイ中も中島の身体に傷を付けないように念を押したとき坂本は訝しげに俺を見てきた。
「井上さんのときそんなこと言わなかった」
「は?それは中島が、俳優だからだろ」
「お仕置きなんだから、跡残ってバレてもいいじゃん」
「ダメだろ。芸能人でいた方が今後役に立つんだし…」
「ふーん?なんかちょっと甘いんじゃないすか」
坂本は不服そうだった。
甘い?俺が中島に?
一番腹立ててるのは俺だぞ。
目の前で坂本が中島に拘束具を付けるのを見て、俺は少し興奮して来た。
やっぱ手錠はいいよな。
俺はもう、条件反射でスイッチが入るようになっていた。
よし、脱ご。
他の連中に背中を向けてシャツのボタンを外して床に脱ぎ落とす。
すると坂本にまた文句を言われる。
「ちょっと亜巳様、そこで脱ぐのやめて下さい」
「あ?」
なんなんだよ、やけにつっかかってくるなこいつ?
俺はファスナーをおろして下も脱いだ。
「俺がどこで脱ごうが勝手だろ」
「ストリッパーじゃないんだから奴隷の前でサービスすんのやめて下さい」
「ちっ、いちいちうるさいなぁ」
井上はボケッと口を開けてこちらを見ていた。
中島は少し気まずそうに目を逸らしている。
えっ、なになに?恥ずかしがってんのこいつ?
ちょっと楽しくなってきた。
俺は今日は黒のハーネス風ランジェリーを身に付けていた。
ブラジャーとショーツ部分は黒くて繊細なフラワーレースなのに対し、ストラップ部分は無機質なハーネス仕様になっている。
首周りとヘソの上辺り、そして太ももにもハーネスが少し肌に食い込んでいて、可愛いのにちょっとハードな雰囲気もある。
そこに黒のニーハイストッキングを履いていた。
それを見た坂本が苦々しげにつぶやく。
「エロすぎ。気合い入れすぎ」
「こんなもんだろいつも!なんでそんな突っかかってくんだお前。今日はおかしいぞ」
「いつもはビスチェなのに今日はビキニじゃないすか」
坂本はぶすっとした顔をしてそっぽを向いた。
なんなんだよ。
それでなくても計画通り行ってなくて俺はイライラしているのに。
ちっ。
坂本は放っておこう。とりあえず中島をシメる。
中島はやはり、こちらを直視できずに視線をさまよわせていた。
俺は中島に近寄る。
「こっちを見ろ中島」
中島は渋々俺の方を見た。ちらっと全身に視線を這わせたのを俺は見逃さなかった。
「どうだ?」
「どうって…」
「似合うか?」
「いや、なんでそんな格好…」
「お前のせいで死んで、女王様として生き返ったからだ」
俺が死んだって言った瞬間中島はビクッとしてその後うなだれ、また謝った。
「ごめん。本当に悪かった。なんでもするから…許してくれ」
頭を下げたまま顔を上げない中島のつむじを俺は見ていた。
つむじの形まで良いのかよ。
けっ、面白くないな。
バシっと俺は中島の頭を叩いた。
そして顎を掴んで上を向かせる。
目を見て念を込めて暗示をかける。
あれ…うまくかかんないな…
やっぱり何かガードかかってるのか?
「え…?」
俺は目をむいた。
おいおい、こいつ泣いてるじゃん!
「ごめん、大門ごめん…生きててよかった…本当に俺…ずっと探してて…よかった…」
「ばっ、おま、泣きやめよ!何泣いてんだばか」
ほんとこいつなんなんだよ~!
何一つ思い通りにならないじゃん。今日はもう仕切り直しか?
「泣いてごめん…ひっく…良いから殴るなら殴って。蹴ってもいいし好きにしてくれ」
「あ、あのなぁ…」
俺は自分の髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した。
なんかこいつに暗示がかからない理由がわかった気がする。
暗示なんてかけなくてもこいつの精神が既に下僕だからだ。
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