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第5話 噂
その後、僕は上級生に手で奉仕させるだけさせて立ち去った。
相手は自分の昂った物もなんとかして欲しそうにしていたが、知らんぷりで置き去りにした。
それから、口の軽いあの上級生は僕のことをベラベラと口外したらしい。
噂が立って、たまに僕に眼鏡を外して顔を見せてくれと言ってくる生徒がやって来るようになった。
来たのが僕好みの男なら、時間潰しに相手してやった。
2~3人で連れ立ってやって来る者もいた。
どの男たちも、良家の子息であり将来会社のトップになるような人物だ。
僕はそんな男たちが、僕の言いなりになって「なんでもする」とすがってくるのを面白がっていた。
男たちを意のままにすることで、家で蔑ろにされ、男なのに男とも見なされずに生きている劣等感を少しでも忘れられる気がした。
…お前たちなんて、偉ぶっているけど僕に簡単に弄ばれる程度の存在なんだ。
そしてある日、ある人物の言葉を聞くことになる。
放課後、学校の廊下を歩いていたら数名の男子生徒が固まって話しているのが聞こえた。
そこの角を曲がった先にいるらしい。姿は見えない。
「なあ、西園寺の噂って本当かな?」
僕の名前が出てぎくりとする。
どうせ僕の顔を見たいという輩の下卑た会話だろうと思った。
「さあ、東郷はどう思う?」
「噂なんてくだらないし興味ないね。それより日銀の短観見たか?」
一言で切って捨てた。
まるで気にもとめない。何なら、西園寺というのが誰なのかすらわかっていないかもしれない。
それくらいの口調だった。
僕がやっていたのはちょっとした悪戯にすぎなかった。
だけど、この些細な悪戯で僕が自尊心を満たしていたのも事実だ。
そしてこの東郷と呼ばれた男はそれをいとも簡単に「興味ない」と吐き捨てた。
全然喋ったことも無い相手だったけど、僕の全部をゴミ箱にでも捨てられたような気がした。
確かに、俺の噂なんてものより経済の動向の方がよっぽどこの世で価値のある情報だ。
それは当たり前だったが、なぜか妙に胸に突き刺さってじくじくと痛みが広がるような感じが消えなかった。
それから僕はその遊びをやめた。
東郷のことがどうというわけではないが、結局男たちを従えたような気になっていただけで、実際には単なる若い性欲のはけ口にされていただけだと気づいたからだ。
ネット上に転がっているポルノ画像と同じだ。
ようするに、見るに堪えないくだらない存在。それだけ。
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