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第8話 温度差

あの日初めてセックスしたときの歓びは僕を暫くの間有頂天にした。 上野は優しいし、セックスも上手かった。 部屋にローションやスキンが用意されていたところを見ると、現在彼女がいるのかもしれないが聞いたことはなかった。 それは僕にはどうでもよかったから。 上野とセックスすると気持ちいいし、家でのゴタゴタが頭から消え去ってスッキリする。 僕はたまにそうやって発散していたら体調も良くて、勉強も捗ったので上機嫌だった。 別に上野と付き合いたいとかそういうことは考えもしなかった。 ただ、ジムで汗を流す位の感覚だったのかもしれない。 それで、上野の様子がおかしく、だんだん元気がなくなっていることに気づくのが遅れた。 これは上野が努めて僕の前ではいつもどおり振る舞うようにしていたからでもあったが。 上野は僕とのセックスに溺れて、勉学が手に付かない状態になっていたのだ。 僕は全く気づかなかった。自分だけ調子が良くて浮かれていたから。 上野は僕が予想したとおり彼女がいて、卒業したら結婚しようと話すような間柄だったらしい。 が、僕と初めて寝てから上野は僕のことしか考えられなくなっていた。 それでもまだ理性が強い人間だったから見かけ上は普通に過ごしていた。 無理に僕を襲うようなこともなかったし、だから僕は自分が都合の良いときだけ上野の家に押しかけて抱いてもらっていた。 そう、と思ってたのだ。 だけど、本当は上野は僕とセックスしたくてたまらないのを我慢して我慢して、僕が誘うときだけ寝ていた。 「初めて静音を抱いた後、お前への気持ちが強くなって…お前が他の男と話をすることすら見るだけでイライラするようになったんだ」 上野は苦しそうに語った。 そして、もう会うことはできないと言われた。 同じ学部だから全く会わないわけにはいかなかったけど、それから上野とはプライベートで話すことは一切無くなった。 しばらくの間はそれで平凡な日常が取り戻せたように感じていた。 だけど、1週間経ち、2週間が過ぎていくうちに僕は身体の不調に気がついた。 上野と定期的にセックスしていた時と比べて明らかにパフォーマンスが落ちている。 同じものを食べて、同じ時間に寝ているのにだ。 何をしても、どんなに寝ても怠くてやる気が起きない。 起き上がるのすら億劫なくらいだった。 それに対して性的な欲求だけは顕著で、自宅にいるときは勉強の合間合間に自慰をしていた。 上野に組み敷かれるところを想像しながら前をしごき、後ろに指を入れて抜き差しする。 誰にも見せられないような浅ましい姿だ。 「ああっ…」 僕は肉体的にも精神的にも苦しくて泣きながら射精した。

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