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第18話

 三日目の朝は、湊先生が僕の首すじに鼻先をうずめている状態で目が覚めた。僕のからだは汗やら精液やらでべたべたに汚れていた。どうやら昨日は途中で気絶したらしい。まだからだは熱っぽさが残るけれど、大分楽だ。  けれど噛まれた背中や肩が痛い。そういえば昨日は途中から記憶が飛んでいるけれど、革製の首輪は外れていないだろうか。慌てて確認する。外していたら、湊先生とはもう会えない。指先が肌に馴染んだ革に触れて、安堵する。  それでようやく意識が湊先生にいった。 「せんせい?」  首を曲げて、湊先生の方を見る。高い鼻梁と、かたく閉ざされた目蓋に長い睫毛が生えているのが見えた。規則的な呼吸の音が聞こえる。 「湊先生?」  もう一度、今度ははっきりと呼んでみると、湊先生の睫毛が震えた。ゆっくりと目蓋が持ち上がる。やや色素の薄い虹彩がぼんやりと僕に向けられる。 「……はるかくん?」  寝起きの少し掠れた声に、どきどきする。そしてそれとは別に、ヒート時の見境のない行動をとった僕を、湊先生はどう思っているだろう。 「湊先生、怒ってます?」  恐る恐る尋ねると、「なんで?」と返ってきた。 「だって僕、」  何と続けたらいいのだろう。湊先生のことも考えず、自分勝手に求めてしまった。しょげてしまった僕の頭を、湊先生は撫でてくれる。 「まあ、僕も流されてしまったし」  仕方ないよね、と苦笑した。アルファ性もオメガ性もそういう性質だから。  すん、と湊先生が僕の首すじで鼻を鳴らした。 「まだ少しフェロモンが出ているね。今日も家にいた方がいいね」  そう言いながら、湊先生の手のひらが腰を撫でた。ぞくぞくと甘い痺れがする。 「せんせい……」  目顔で僕が正直な欲求を伝えると、湊先生は「ごめんね」といつもの柔和な顔で謝られた。続きをしてくれそうにはなかった。代わりに、「お風呂入る?」と訊かれる。 「からだがべたべたで気持ち悪いでしょう?」  それにシーツも変えなきゃいけないしね、とも言われた。  お風呂には入りたい。清潔なシーツに包まれたい。だけれどひとりはやっぱり嫌だった。 「……湊先生と一緒がいい」  素肌の腕にしがみつく。大人の湊先生と発育不良で肉付きの悪い僕の腕では、同じ腕と思えないくらい違う。湊先生が、ぎゅっと腕に抱きついた僕の頭を撫でてくる。 「わかったから、ちょっとひとりで待てる?」  口ではそう言うけれど湊先生の目は「待てるよね?」と言っている。僕は素直に頷いた。  するり、と湊先生はベッドから出ていってしまう。床に散らばった洋服を拾っててきとうに羽織り、部屋を出ていく。しばらくしてバスルームの方でお湯の出る音がしたから、お風呂の準備をしてくれているのだ、とわかった。  

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