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第21話

 四日目の朝、僕は客間のベッドで目を覚ました。昨夜に飲んだ抑制剤はしっかりと効いているらしく、もう熱っぽさも怠い感じもしない。  着替えて鏡の前で、服装の最終チェックをする。ふと、革製の首輪に意識がいった。鏡に近付いて、背中側を写しながら振り返る。首輪にはしっかりと湊先生の歯型がついていた。指で触っても、弓状に並んだ小さな凹凸がわかる。 「先生」  きっと僕のヒートにあてられて、つらかったんじゃないかな、と思う。申し訳ない気持ちになった。  どんな顔をして会おうかと、客間の扉を開けた。パンの焼けるいいにおいが鼻先を掠めた。 「?」  そういえばヒート中は食欲が湧かなくて、ろくに食べていない。久し振りにお腹の空く感覚がした。キッチンを覗く。  湊先生がトースターの前に立っていた。相変わらず食事はケータリングらしく、テーブルの上にはとろとろの黄色いスクランブルエッグとカリカリに焼けたベーコン、サラダ、オレンジジュースとコーヒーが用意されていた。 「遥くん、おはよう」  そう言って、湊先生は僕の首すじに鼻先を近付けた。 「湊先生、おはようございます」  僕が黙って首を差し出すと、湊先生はくすくすと笑った。「もうにおいはしないから、安心していいよ」  その言葉に安心と、少しの寂しさを覚える。湊先生の指が僕の首輪に触れた。 「痕、ついちゃったね。ごめんね」  申し訳なさそうに、うなじ近くの首輪の凹凸部分をなぞる。  いっそ噛んでくれてもいいのに。僕は先生と番になりたい。 「僕は先生とつが」  言葉は途中で、湊先生の人指し指で止められた。僕の唇に先生の人差し指が当たる。 「その話はしないこと」  わかった?と小首を傾げた先生に目顔で問われて、僕は、こくこく、と頷く。それを確認した先生は「遥くんはいい子」と頭を撫でてくれる。 「さ、ごはん、食べよう? ここに来てからほとんど食べてないでしょ?」  湊先生は僕の背中を押して、食卓へ誘導してくれる。スクランブルエッグの甘くて温かなにおいと、パンの焼けるにおいが空腹を誘う。  先生はトースターから焼けたクロワッサンを取り出して、僕と先生の席の前に置いた。  ふたりで「いただきます」をする。 「今日も奮発したんですか?」  僕が意地悪く質問する。だってごはんが豪華だ。それに湊先生は笑って、「普通だよ」 「これくらいは食べてね、遥くん」  釘を刺されてしまった。正直僕には少し量が多いかなと思っていたので、痛手だ。それでも「はあい」と返事をする。  

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