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閑話休題-シュークリームを食べました。

 久し振りの定期健診で、僕は湊先生の務める病院に行った。白い壁の、強烈に「清潔」をアピールした病院だ。そこでいつもの検査をして、診察室の前の椅子で待つ。三十分くらいすると、診察室の扉が開いて「清水遥さん」と呼ばれた。 「先生、こんにちは」 「遥くん、こんにちは」  湊先生が柔和な笑顔で僕に挨拶を返してくれる。 「最近調子は?」  湊先生がカルテの画面を横目で見ながら尋ねてくる。 「発作は起きてないです」  最近はこの問答ばかりだ。湊先生は「順調だね」と言ってくれた。「でも薬はちゃんと飲んでね」  いつも通りの診察のあと、先生が「今日も送るんだよね。控室にシュークリームがあるから、食べていていいよ」と言ってくれた。  行ってみると確かにシュークリームが大量にあった。馴染みの看護師が「清水くん、久し振り」と、手招きしてくれる。素直にそばへ寄ると、シュークリームを手渡された。これは食べていい、というより、強い意志を感じる。 「いただきます?」  小首を傾げて言うと、「召し上がれ。まあ貰い物だけど」と言われたので、遠慮なくかぶりついた。かためのサクサクとした生地の中から、とろりとカスタードクリームが流れ出てきて、僕は慌てた。「うわっ」  指でクリームを掬って舐めとって事なきを得た。ただ行儀は悪い。ばつの悪い顔で看護師の方を見ると、「そうなるよね」と笑ってくれていた。  しばらくすると湊先生がやってきた。入れ代わりで看護師が出ていく。 「糖分、糖分」と湊先生はシュークリームを手にとる。僕の近くの椅子に座った先生が、シュークリームに歯を立てる。パリパリと音を立てるかための生地の脇から、薄い黄色のクリームが零れ出た。今にも落ちて白衣を汚しそうだ。 「あ」と思ったときには、手が伸びた。落ちそうになるクリームを、人差し指と中指で掬いとる。先生も、おや、という顔をしている。 「クリーム、零れそうだったから」  つい、手が出ました。と説明すると、「ありがとう」と言われた。「ティッシュ」と呟きながら目で探していると、僕の指を先生がぱくり、と咥えてしまう。 「え、え?」  慌てる僕を見上げた湊先生は、舌先を人差し指と中指の根元から先端へとゆっくり這わせ、爪先を丁寧に舐め上げる。僕はこの舌の動きを知っている。それはこういう場面でやる行為と違って、むしろ僕がヒートを起こしたときにしてもらった。段々と顔が熱くなってくる。 「せんせい?」  まだ丁寧に指の腹を舐めている湊先生を、小声で呼ぶ。先生はメタルフレーム越しに上目遣いに僕を見てから、ちゅぷ、と音を立てて僕の指を解放した。 「遥くん、何想像したの?」  ちょっと、かなり、意地悪な質問をされた。湊先生には僕の考えなんてお見通し、ということだろう。 「先生のえっち……」  僕は涙目で湊先生を見る。  

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