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第23話
診察した湊先生の許可も下りて、翌週から制服を着て、僕は学校へ行った。学校は主にベータ性とオメガ性の生徒ばかりで、アルファ性はほとんどいない。そもそも別クラスなので、ほとんど見たこともない。だから僕は日常生活で、自分をオメガ性だと強く意識する日は少なかった。
「清水、久し振り」
「久し振り」
一週間振りに登校すると、必然そういう挨拶ばかりになる。ここでもオメガ性とベータ性の間で差が出てくる。オメガ性の生徒は、僕の休んでいた理由を何となく察している。
「ねえ、清水。ヒートってやつ?」
「何、清水、ヒートだったの?」
無遠慮に寄ってくるのはベータ性ばかりだ。
「親が出張だったんだ」
僕はそう言い切る。嘘は言っていない。ヒートのときの記憶はあるけれど、満たされない下腹部の切なさと虚無感と、満たされたときの浅ましいくらいの満足感がぐちゃぐちゃになっていて、不快だった。オメガ性たちのヒートの記憶は大体みんな同じではないだろうか。本能の赴くままに求めるヒートなんて、つらいだけだ。
「へえ」
クラスメイトのベータ性のひとりが意地悪く僕の革製の首輪をなぞった。びくり、と肩が震える。慌てて僕は首輪を押さえる。
「何するのっ」
焦って振り返った視線の先には、僕より数センチ背の高いクラスメイトが立っていた。「悪かったって。首輪はオメガの必需品だもんな」なんて、全然悪かったと思っていないふうに謝られる。自身の首輪に触れられるのがどれ程怖いか、彼らはわかっていない。
「でもこの首輪、歯型がついてるっ」
わざと教室中に響くような声で、クラスメイトは言った。最悪だ。教室中の視線が一瞬僕に向けられる。
「ねえ、噛まれたの?」
視線はすぐに逸らされたけれど、みんな聞き耳を立てているのがわかる。他人のヒート事情が気にならない、といえば嘘になる。でも堂々と訊くやつは普通いない。失礼だ。
僕は湊先生と番になりたい。それは本音だけれど、それを好奇心旺盛なクラスメイトに言いふらす程愚かではない。
「……」
僕は鞄を持って、登校したばかりのクラスを出る。
「清水っ」
今度はクラスメイトが慌てる。まさか僕が登校早々に帰ろうとするとは思わなかったのだろう。軽い冗談、あるいはちょっとした下ネタ、その程度に思っていたのだと思う。
「僕、発作が出そうだから帰る」
これも嘘じゃない。ストレスがかかれば、発作は出やすくなる。
ヒートになってどんなに理性がなくなっても、こいつとだけはしない、とそのクラスメイトの顔をよく覚えておいた。
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