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第24話

「それで僕のところに来たの?」  そう言って、湊先生は笑った。馴染みの看護師も一緒になって笑っている。  ここは湊先生の務める病院の診察室の一室だ。僕は学校を出てそこに駆け込んだ。自宅に帰ってもよかったのだけれど、クラスメイトから食らった怒りをどこかで消化したかった。  それなのに笑われて、僕はぷくぅとむくれる。 「来ちゃだめですか?」  カルテの横で頬杖をついていた湊先生の手が、伸びる。軽く頭を撫でられる。 「だめじゃないけど、遥くんはそろそろ僕から離れないとねぇ」  それに看護師が「っぷは」と吹き出した。「先生もですよ」  その看護師の言葉に、「おっと、」と先生の手が僕の頭から離れる。 「僕も遥くん離れをしないと、かあ」  なんせ湊先生とは八年来の付き合いだ。もう僕は湊先生と出会う前よりも、長く湊先生と一緒にいる。十歳のときに検査を受けた頃から、「大きくなったら湊先生と番になるの」と言い張るくらいには、湊先生が好きだ。だからその湊先生の言葉は青天の霹靂だった。  僕は目を見開く。「え」 「先生は僕と番になってくれないのっ?」  その言葉に湊先生も看護師も笑う。「そういう意味じゃないよ」と看護師が手を振った。湊先生も大きな手を左右に振っている。 「番になる、ならない以前の問題だよ。まずは僕から自立しなきゃ」  湊先生の言葉に「ううう」と僕は唸る。看護師が面白そうに僕を見ているのが、悔しい。その看護師が呼ばれて、席を離れた。  ふ、と湊先生の腕が僕の首に伸びる。革製の首輪に触れるかどうかの距離で、指先が止まる。 「でも首輪の歯型は、君たちには刺激が強いかもね。買い換えようか?」  僕は咄嗟にぎゅっと首輪を掴んだ。僕の首に馴染んだ首輪だ。しかも歯型は湊先生のものだ。 「やです」  僕の表情に湊先生は「おや?」という顔をする。 「だってまた面白半分に、言われちゃうよ?」  その言葉に僕はいやいやをする。 「これは湊先生が噛んだ痕だから、換えないっ」  これに湊先生はほんのりと頬を染めた。 「それ、すごく恥ずかしいことだから、あまり言わないで欲しいな」  先生が言うのなら、黙っていよう。それにしても顔を赤らめる湊先生は中々見れない。すごく貴重だ。写真を撮ったら怒られるだろうか。 「先生、」ぐるぐると思考を巡らせた僕は、堪らず湊先生の首に抱きつく。「可愛いっ」  先生は「はあ」と溜め息を吐いて、僕を抱き上げた。「遥くんの僕離れは大分先だなあ」  こうして抱き上げてもらえるなら、そんなの全然先で構わない。  看護師も戻ってきて笑っている。「赤ちゃん返りでもしたのかな?」とかなんとか言われたけれど、気にしない。  

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