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第27話
「生態系について」というざっくりとした課題は、科学館に着いて三十分で消化した。残りの時間で、剥製の動物たちを見ていく。
「遥くん、こっちはいいの?」と尋ねる湊先生に、「僕は海の生き物で書いちゃったので」と答えた。
「ふうん」
先生はのんびり答えると、僕のペースに合わせて剥製を眺めていく。その横顔はきらきらしている。湊先生は科学館が、あるいは動物が好きなのだろうか。そんなことも僕は知らなかった。
湊先生のことならなんでも知っているつもりになっていた。実際は私服もろくに知らないし、趣味もよくわからない。助手席に誰を乗せているのかも知らない。知らないこと尽くしだ。
「湊先生は科学館が好きなの?」
湊先生の隣に並んでも、僕とは身長差が十五センチくらいあるから、同じものは見れない。何を見ているのだろうと、背伸びをするけれど、それでもまだ追いつけない。
そんな僕を見て、湊先生は「何してるの」と笑う。本当に、何をしているのだろう。
「昔から好きなんだ、科学館」
先生は剥製の動物をじっと眺めている。「ここにも何度も来ているよ」
僕は湊先生が科学館を好きなことも、ここがよく来る場所だということも、今日はじめて知った。
「先生が科学館好きなこと、はじめて知った」
これからもっといろいろ教えてもらうためには、どうしたらいいのだろう。
「そうだっけ?」
湊先生は頓着しなさ過ぎる。
先生は僕の好きなことも、好きな服も、好きな人も知っているのに、これはバランスが悪い。
「そうです。海の館の方が好き?陸の館の方が好き?」
先生のこと、いっぱい教えて欲しい。
例えば今目の前にある大きな手に、触れていいのかどうか、とか。
「海の館の方がマニアックだよね。遥くん、よくこっちで書いたね」
これは褒められているのだろうか。僕は僅かに首を傾げた。
そして目の前の湊先生の手のひらは手持ち無沙汰な感じがする。これは僕の欲目だろうか。
「先生、僕、褒められてるの?」
思わず尋ねてしまった。湊先生は「あれ?」という顔をして、「褒めたつもりなんだけれど」と言われた。湊先生は褒めるのが下手なのかもしれない。これも今日わかったことだ。
褒められたのは素直に嬉しいので「ありがとうございます」と言う。
「科学館、楽しいでしょう?」
きらきらと目を輝かせている先生と同じには、僕は見れないみたいだ。
僕は、楽しそうにしている湊先生を横で見るのが「楽しい」
それよりこの手は、繋いでもいいの? だめなの?
「湊先生、手、繋ぎたい」
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