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閑話休題-君は変態、です。
はふはふと息を吸う。まだ呼吸が浅くて速い。
僕は湊先生の部屋のベッドに埋もれていた。四肢は脱力して、投げ出されている。制服のワイシャツはボタンを全部外されて、袖は通しているものの皺が寄っているだろう。ヒートでもないのに、下着はぐちゃぐちゃで気持ちが悪い。スラックスは、どこにあるのかわからない。
つまり、僕は湊先生の部屋でそういうことをしていた。言い訳がましくなるけれど、したのは湊先生だ。僕はされた方。
湊先生の部屋に押しかけて、そういう雰囲気に持っていけたと思ったのに、気が付けば僕ばかりがイかされていた。湊先生は「気持ちよかった?」と訊いてきたあとは、「お水とタオルをとってくるね」と部屋を出ていった。
「なんで僕ばっかり……」
僕はぷくぅとむくれる。ヒートのときは頭の中が湊先生でいっぱいで、それはそれで幸せなのだけれど、そうじゃないときだって欲しくないと言ったら嘘になる。だから「湊先生をちょうだい」と可愛らしくねだってみたのに、なぜかこうなってしまった。
部屋の扉の開く音がする。
「遥くん、大丈夫?」
全然大丈夫じゃない。僕は湊先生が欲しかったのに、僕ばっかりで、結局欲しいものはもらえなかった。
湊先生が両手にペットボトルの水と、濡れタオルを持って来てくれる。まだベッドから起きられないでいる僕を見ると、「寝ていていいよ」と言われた。
「僕が勝手にやるから」
勝手って、これ以上勝手にされるのか。もう何でもいい気がしてくる。僕は湊先生に身を委せてしまう。
湊先生の方は丁寧に僕のからだを起こしてくれて、ワイシャツを脱がせてくれた。「これ、皺になっちゃうね、どうしようか」、なんて言う。本当に生活力がない。
でも僕のからだを拭いてくれる手付きは、とても優しい。べたつく汗やら唾液やらが拭われて、気持ちがよかった。「気持ちいいです」素直に伝えた。そうすると湊先生はちょっとメタルフレームの眼鏡の越しに目を丸くしてから、「そう」と目を細めた。そのあとに、
「パンツ、脱がせちゃっていい?」
なんて言う。その一言に、面白い程僕は動揺した。それは、ちょっと、勢いで脱がされるならともかく、冷静になりかけてるときにされるのは、つらいものがある。
「じ、自分でできるっ、からっ」
僕は湊先生からタオルを奪おうとする。それを先生は拒否した。
「僕がしたいの」
そう言って、僕の腰に手をかけた。もう僕は諦めて、先生が下着を脱がせやすいように腰を浮かす。案の定簡単に脱がされた。「わあ、べとべと」と一言言われて、今さら羞恥で頬が熱くなる。
「先生、意地悪……」
湊先生の首に腕を回し肩に顔をうずめて、僕は鳴く。それに先生は小さく笑った。
「遥くんは可愛いから、意地悪したくなっちゃうよね」
そういうところが意地悪だ。そんなこと言われたら、僕はこれ以上何も言えなくなってしまう。
「さて、下着の替えはないけれど、洗濯している間、シャツは僕のを着てる?」
まさか全裸でいるわけにもいかないので、素直に僕は頷いた。ようやく手渡されたペットボトルの水を飲みながら、僕は湊先生のワイシャツに袖を通した。きちんとアイロンのあてられたワイシャツのサイズは、予想はしていたけれど僕には大きくて、袖は余るし、裾は長い。不格好な僕の姿を見て、湊先生は口を開いた。
「これ彼シャツって言うんだっけ? 制服の遥くんも可愛いけれど、こっちも可愛いね」
余った袖はどうしたものか、と考えていた僕に、先生はそんなことを言う。ぼっ、と一瞬で顔に熱が集まった。
「先生の変態っ」
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