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第35話***
薄暗い室内のベッドの中で、湊先生の手が僕の腰を洋服越しに撫でる。それだけで僕はぞくぞくした。ヒート中の頭がくらくらとする。そんな頭でこれからされることを思うと、期待でまたお腹がきゅぅと疼く。
「とりあえず、脱いじゃおうか」
そう言われて、スキニーパンツに手をかけられる。ベルトはいつの間にか外されていた。そして簡単に下着ごとパンツを下ろされる。緩く勃ち上がっている性器が露わになった。咄嗟に脚を閉じようとすると、僕の両脚の間に湊先生が割り入ってくる。
「僕がするから」
その言葉と共に、僕の性器は先生の手の中に収まってしまう。ゆるゆるとその手を上下に動かされる。
「ふ……、んっ」
緩やかに与えられる刺激に、思わずのどを反らした。そこへまた、湊先生が顔をうずめる。すん、とにおいを嗅がれた。
「湊先生ぇ」
先生は僕の首すじで鼻を鳴らし、耳や僅かに覗く首すじと革製の首輪の境目に執拗に舌を這わせている。そこに甘えたな声で絡む。
「なあに、遥くん」
耳元で、柔らかな低い声の湊先生が応えてくれる。大好きな人の声に、頭よりも先にからだが反応する。ゆっくりと快楽を与えてくれている先生の手の中で、僕の先走りの量が増える。
「……先生、僕のこと、好き、ですか?」
この一言が怖くて訊けなかった。もしも「好きじゃない」と言われたら、僕はどうしていいかわからない。それくらいなら知らない方がいいと思っていた。湊先生が僕の首すじから顔を上げる。眉尻が下がって、困り顔だ。
「遥くんには本当に困っちゃうね」
それはどういう意味だろう。回らない頭で考える。考える端から思考がシーツに流れ出ていく。目に涙の膜が張るのはなぜだろう。
「せんせ?」
知らず、訊き返す僕の声も小声になる。倦怠感のあるからだは、そんなことより早くもらう方法を、と訴える。ぽっかり穴の開いたような虚無感が埋まりそうなのに、なぜ今そんなことを訊く必要があるのか、と浅ましいもうひとりの自分がいる。でも「好き」と言ってもらえないと、きっといつまで経っても、からだに穴の開くような虚無感はつきまとってくる。
「……好きだよ。アルファの僕が欲しくなっちゃうっていう意味の、好き」
急に目に張った涙の膜が分厚くなる。これでは零れてしまう。でもそれはずっと求めていた言葉で、ヒートのたびに感じるぽっかりと穴の開いた感覚をようやく埋めてくれる。急に胸が多幸感で埋まってしまったので、押し出されるように、つぅ、と頬をひとすじ涙が伝った。
「遥くんっ?」
湊先生が慌てる。その顔が可愛らしくて、僕は湊先生の首に腕を回した。
「僕、オメガ性でよかった、って思う」
湊先生が僕を番にしてくれなくても、多分この満たされた感覚はベータ性だったら知らないままだ。
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