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第3章ー第40話 夕暮れ時の後悔

 帰り道。寄っていいものか考えあぐねた結果、やっぱり気になって寄ってみようと決める。渡辺の話では、澤井が贔屓(ひいき)にしている病院は近くだという。 六時過ぎに退勤して、それから足を向けた。 「ここかな?」  古ぼけた病院は小さい。街の医者と言うところか。総合病院ばかり見慣れていると、こんな小さな病院で入院設備があるのだろうかと疑問になった。  正面入り口には、「本日の診察は終了しました」と札がぶら下がっていた。その下に小さく「入院患者への面会は西口よりどうぞ。面会時間14時〜20時まで」と書かれていた。 「やっぱりここかな?」  そう呟いてから、西口と矢印で指し示されている方に足を向けた。  緋色のぼんやりした丸い電灯が灯る入り口は小さい。建物自体が石造りなので、市役所と代わり映えしない時代の建造物だと言うことは伺えるが、扉の枠は木製で、白いペンキが剥がれている。相当古いようだ。  こんな古い病院が信頼できるのだろうか。総合病院の方がいいのではないか――。  そんなこと思いながら、扉に手をかけると、施錠されているようだった。戸惑って辺りを見渡す。扉の横に「呼び出しベルを押してください」と記載されていた。  指示通りにボタンを押すと、すぐに落ち着いた低めの女性の声がインタホンから聞こえた。 『はい』 「あの、面会は可能でしょうか?」 『患者様のお名前は?』 「えっと、保住さんです」 『現在、面会に制限をかけさせていただいておりますが、ご親族ですか?』  ――面会できないのだろうか?  田口は口ごもってしまった。 「いえ。すみません。職場の部下です」 『少々お待ちください。確認いたします』  ジリジリとした機械的な音が途切れた。  ――入院はしている。ここで間違いない。しかし、悪いのだろうか?  しばらくして、かちゃんと何か繋がる音がしてから、先程の女性の声が聞こえた。 『申し訳ありません。本日の面会は難しいです』 「え? やっぱり悪いんですか?」 『病状についてもお答えしかねます。明日以降においでください』 「……わかりました」  ダメなものはダメなのだろう。田口は肩を落として帰途に着いた。 「保住さん……」  ――心配だ。不安だ。 『田口』  保住の顔が脳裏に浮かぶ。  ――もう会えなくなったらどうしよう。まだ、なにも始まっていない。  話したいこともある。  聞いてみたいことだらけ。  教えてもらいたいことだらけ。  ――知りたい、知りたい。  あなたのことが知りたいと思った矢先なのに、こんなことになるなんて。  ――なぜ、気が付いてあげられなかったのだろう? 悔しい。  田口はふらふらと暑い夕日の中を歩く。心の中は、後悔ばかりだった。

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