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第4章ー第46話 スケールの違い
部屋はたくさんあれど、不慣れなところで一人で寝かせておく訳にもいかないと、田口の部屋に布団が一式、準備されていると田口の母親は言った。
「すみません。他の部屋も準備できるのですが。狭いですよね」
そう言いつつ案内された田口の部屋に入って、保住は驚く。
「お前の部屋は多目的ホールか」
「え、すみません。変ですか?」
田口の自宅は、昔ながらの農家の造りだ。雨樋 があって、縁側があって、部屋の仕切りは障子だ。田口の部屋も然り。普通の住宅にしか住んだことのない保住からしたら、こんな広い部屋は宴会場か旅館でしか見たことがない。
「何畳あるんだ?」
「えっと。十五畳です」
保住は笑いだす。
「通りで」
「え?」
「いや。きっちりしている割に、たまにスケールのでかいことを言い出すのは、こういう環境で育ったからだな」
「そうでしょうか」
「こんな広い部屋で、悠々と過ごせるなんて羨ましい」
田口は自分の常識は常識ではないと理解したのか、なんだか気恥ずかしそうにうつむいた。そして黙々と布団を敷くと、保住を促した。
「どうぞ、ここで」
「すまない」
「おれ、ちょっと用足しをしてきますから、着替えをして横になっていてください。夕飯は別に一緒にしなくていいんで。ここにいてもらって大丈夫です。後、トイレはここ出て右の突き当りなんで。古いので驚かないでくださいね」
「ありがとう」
「では、また来ます」
田口は頭を下げると廊下に姿を消した。
***
なんだか気恥ずかしい。仕事のことなら、いくらでも話せるのに、プライベートになると共通点があるわけでもない。話しをするネタがなかった。
田口はドキドキとする気持ちを抑え込みながら、居間に向かった。長い長い廊下は古びていて、田口が歩くたびに鈍い音を立てる。久しぶりに感じた埃臭い匂いは懐かしい。
――帰ってきたんだ。係長と。しかし不安だ。
田口の家族が大人しく保住を放っておくはずがないと思ったからだ。それに保住に家族の恥をさらすようで気が重かった。嬉しい反面、これからのことを考えると頭が痛んだ。
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