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第7章ー第75話 自覚する恋心
湿っぽい飲み会は最悪だ。田口は三人と別れて歩いて帰宅した。すでにアルコールが悪さをし始めているようで、頭が痛んだ。途中コンビニでミネラルウォーターを買って飲みながら歩く。星が綺麗な夜だった。
マンション下の道路はみのりたちと出会した店が、閉店の準備をしているところだった。
時間は深夜になる頃。金曜日というのに、なんとも寂しいものだ。
白いシャツに、黒いエプロンの男が看板をしまっているのを立ち止まって眺める。このオシャレな店はよく知らなかったが、その隣には古ぼけたバーがあった。何年も住んでいるのに、気がつかなかった。水を一口含み紫色に灯った看板を見る。
「ラプソディー?」
――昭和のクラブみたいだな。
流行っているのだろうか。
――こういうところは大概、一元さんお断りなのではないか? ボトルキープとかあるのか。
「関係ないか」
大きい独り言に驚いてはったとした。かなり酔っているのだろう。ヒックとしゃっくりが出た。
「なんだ? 大丈夫か?」
自問自答して、笑い出す。
――なんだ。おかしい。笑っちゃう。
「馬鹿みたい」
保住に冷たくあしらわれて、こんなにショック受けるだなんて。そのこと自体にもショックはあったが、それよりなにより。こんなにもショックを受けている自分にショック。
ただの上司のはずだ。
ただの先輩のはずだ。
ただの憧れの人なはずだ。
年齢が近い友人まがいの人なはずなのに。
友達でもない。
知り合いでもない。
仕事で同じ部署になって。
年齢がちょっと近いだけで。
それで、それで――。
「なんで……」
こんなにも、あの人は自分の心に入り込んでくるのだろう。
まるで――。
最愛の人みたいに。
「最愛?」
弾かれたように、心臓が跳ねた。
「ば、バカか」
首を横に振る。
――なにを一体……馬鹿げているではないか!
「好きなのか?」
言葉に出すと、ますます恥ずかしい。顔を真っ赤にさせて、居た堪れなくなる。
「は、やだな。変なの」
――否定しろ。自分の気持ちを。否定しろ。否定しろ!
なのに……「違う」のその一言が、出てこなかった。
「でき、ないのか?」
――まさか。
田口は顔を抑えて焦った。
――だから?
澤井と連れ立って帰る保住を見て、心が塞ぎ込むのか。
モノクロの世界が彩られるのは、彼がいてくれるから。
それって……。
「好き……」
――しかも、ただの好きではない。きっと、それは特別な……。
そんなことを考えながら、ふらつく足取りでマンションを目指す。
――疲れているのだろうか? 自分は……。
すると、マンションの入り口に見知った男を認めた。
「遅い! 待たせるな!」
偉そうな物言い。
よく通る声。
――幻聴か? 幻覚か?
追い求めているから。
――夢でも見たのか?
「……っ?」
田口が最愛の男だと認識する保住は、ビニール袋にビールを詰めて立っていた。
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