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第15章ー第121話 本当にに好きなのか

「この年で気にする必要もないが。昔から、からかわれていたからな。トラウマって言うやつだ」 「そうなんですね」 「可愛いでしょう?」  みのりは、ほわほわ~と笑う。こんな調子では、なかなか彼氏もできないのだろうなと田口は思った。みのりを受け止めてくれる人は、相当できた人間ではないと難しいのではないかと思った。保住の面倒見ているような感じだ。天然で、好き勝手、自由奔放なタイプ。 「まったく。みのりといるとロクなことにはならん。帰るぞ。田口」 「あ、でも。みのりさんは……」 「母さんがいるから大丈夫だろう」  帰宅し始めている親族の間を縫って、母親を見つけた保住は彼女に声をかけた。 「おれたち帰るから」  彼女は、いろいろな親族に挨拶をして回っていたようだ。淡いベージュのドレスは上品な淑女だ。みのりは母親似だ。ぱっと派手な顔つきの彼女は、美人としか言いようがない。田口ですら一瞬視線を奪われた。 「帰るの? 家こないの」 「田口もいるし。送っていかないと」  田口は「すみません」と頭を下げる。 「送って行かないとって……あなたも飲んでいるんでしょう? みのりのことを一人で連れて帰るのも大変だし。いいじゃないの。田口くんも家に来れば」 「来ればって」 「あら! 昨年、田口くんの実家にお世話になったのでしょう? 御礼も出来ていないんだし。こんなお正月くらい家でゆっくりしてもらわないと」 「母さん」  弱った顔をして、保住は田口を見上げる。  ――どうする? やめておけ。  そんな顔をしていることは理解できたのだが……。田口は苦笑して頭を下げた。 「それではお言葉に甘えてさせていただきます」 「え?!」  保住は、珍しく驚愕の叫びをあげた。自分の意図が伝わっていなかったと慌てたのだろう。しかし、知っていてなお、受けたのだ。田口は申し訳なさそうに保住に目くばせをした。 「あら、素直で可愛いわね! じゃあ、行きましょうか」  田口の返答に母親はご機嫌の様子だった。 「みのりはどこかしら?」  彼女はみのりを探しながら歩き出す。 「なんで断らない。――いつもは察しがいいのに」 「すみません」  ため息を吐く保住に田口は頭を掻いて謝罪する。  「酔っているのかな?」なんて誤魔化すけど、本当は保住の家族をもっと知りたいと思ったのだ。保住は嫌がるだろうけど。そんなこと、重々承知の上で受けた。 「いい。お前に負担がないならそれでいい。正月を一人で過ごすのは、良く無いからな」 「ありがとうございます」 「こちらこそ、すまない」 「保住さん、遠慮は止めてください。おれ、結構楽しいんです。保住さんの色々なことが分かるし。嫌なら嫌って言います。だから、謝らないでください」 「そうか」  田口はそっと保住の手を取る。 「――触れてもいいですか」  帰宅する人たちで、ガヤガヤしている廊下。インテリアとして配置されている背の高い観葉植物の影になって、周囲からはよく見えない。 「田口……」  保住の骨ばった細い指。ぎゅっと握ったその手は、冷たく感じられた。 「お前は、本当におれが好きなのか?」 「好きですよ。あなたが」 「そうか」  ――なぜ何度も確認してくるのだろうか?  田口は「好きだ」と言っているのに、保住は何度もそれを確認するのだ。 「(なお)! タクシー来たから帰るわよ」  母親の声に二人は連れだって歩き出した。 「行くぞ」 「はい」  本当はもっと触れたいのに、これ以上手が出せない。  ――嫌われるのではないか?  澤井や大友とのこともあって、彼に負担をかけさせたくないのだ。  ――触れたい。そして、本当はもっとそれ以上もしたい。  肌に触れて、唇を寄せたい。キスだってしてみたい。それ以上だって……。本当は彼と繋がりたいとずっと思っているのだ。  ――保住さんは、どんな味がするのだろう?

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