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第18章ー第151話 おれ、同棲します!

「本当にすみませんでした! すみませんでした! 調子に乗りました!!」  田口は平謝りだ。ベッドの上で動けなくなっている保住は手だけを上げる。 「お前のせいではない。おれが悪い」  翌朝。案の定、保住は起きられなかった。腰痛が悪化したのだ。足の指先まで痺れていて思うようにならない。 「どうしましょう」 「痛み止めでも使えば、なんとかなるだろう」 「なるのでしょうか?」 「するしかあるまい」 「今、座薬入れます」  保住は顔を上げる。 「自分でやる! 放っておいてくれ」 「いけません!」 「田口のバカ」 「バカでもなんでも結構です!」  彼は保住のカバンを漁り、座薬を見つけるとバタバタとキッチンに走っていった。田口のせいではないのだ。自分も同じだ。彼と体の関係がないせいか、色々と不安を覚えていたのは事実だ。だからこそ、悪い気持ちにはなっていない。  ――ただ問題はこれだ。  圧迫骨折のおかげで、毎回、こんな調子では目も当てられない。しかも戻ってきた田口は、とてつもない爆弾発言をした。 「あの、保住さん。おれ、昨日一日中考えていたんですけど、――決めました」 「なんだ?」 「ここのマンションを処分して、保住さんと一緒に暮らします!」 「は、え?!」  びっくりして躰を起こすと、腰が変な音を立てた。 「ッッ……ッ」  声にならない痛みとは、このことだ。 「すぐ引っ越していいですか? 荷物は最小限にしますから」 「お前の荷物が家に入ると思うか?」 「なら、保住さんが越してきてくださいよ。荷物少ないし」 「そう言う問題か?」 「なにがいけないのでしょうか? 一緒に暮らしたほうが、おれもあなたをしやすい」 「管理って」 「面倒じゃないですか。今晩はどちらの家に行くとか決めるの」  決めたらテコでも動かない田口に、さすがの保住も歯が立たない。本当は、一番敵わないのが田口なのかも知れない。  ――仕事では言いくるめられるのに。なぜだ! 「やっぱりおれが引っ越します。業者、大至急、探します」 「お前」 「実は、昨日思い立ったので、保住さんのアパートの管理会社に問い合わせたら、駐車場もう一台大丈夫だそうです」 「いつのまに」 「このマンションは賃貸に出すことにしました。家電とかそのままでいいようなので、荷物だけ持っていきますね」  引っ越し前提の話だから、なにを言っても無駄か。 「毎晩、保住さんのあんな顔や、こんな顔見たいし」 「ふざけるな! 毎晩なんて、たまったものではない」 「体力なさすぎなんですよ。鍛えないと」 「田口、おれと一緒に住んでもおれの生活には口を出すなよ? ――いいか?」  寝たきりで、情けないかっこうで言い放っても説得力が足りないらしい。言われた田口は全く怯むことなく、むしろパッと表情を明るくした。 「では一緒に住むことには了解してもらえるってことですね?」 「しまった! そう言う意味では……」  田口は腕を伸ばしてきたかと思うと、保住の腰を引き寄せた。素肌に触れる彼の腕は逞しい。明るくなると、なんだか気恥ずかしいものだ。 「嬉しいです。保住さん」 「……突然過ぎるから抗議しているだけだ」 「わかっています。おれのこと受け入れてくれるんですもんね」 「とうの昔から、お前だけは受け入れられるようだ」 「それは嬉しい」 「その代わり、八つ当たりも我がままも許せ」 「もちろんです。おれだけにどうぞ」  田口はそっと口付けを落とす。  ――やっと前に進めた。  そんな嬉しさが、にじみ出ている笑顔だった。

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