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第19章ー第155話 好きは止められない
保住の作った夕飯を食べながら、田口は今日の十文字の話をした。鯖の焼き魚をくわえて、保住は笑う。
「お前の考え過ぎではないのか?」
「そうなのでしょうか?」
「みんな疲れているからな。少し変だ」
「そうですね。谷口さんも彼女出来たって言いますし」
「全くだ! 喜ばしい」
「そうですね」
保住の手料理は美味しい。田口は料理がからきし下手だが、それ以外の家事は保住よりも秀でている。ちょうど役割分担が出来て具合がいい。
「それよりも、十文字は大丈夫だろうか?」
「おれに聞かないで、ご自分で確かめたらいいじゃないですか。心配なんでしょう?」
――素直じゃないんだから。
田口は笑ってしまった。
「いや、だって。おれのことは鬼だと思っているようだ」
「保住さんも、そんなしおらしくすることあるんですか? いつも、ずんがり行くタイプなのに」
「おれだって、そういう時はあるのだ」
保住は顔を赤くする。くるくると変わる表情は田口には刺激的。
「そうなんですか」
――保住さんが好き。
そんな気持ちで溢れてしまうのだ。
「また! そうやって馬鹿にして」
「馬鹿になんてしていませんよ」
「そうだろうか?!」
保住は箸を振り回して抗議をした。
「記念館に最初に行った時もバカにして見ていただろう?」
「そんな昔のこと、よく覚えていますね」
確かに。初めて星野一郎記念館に連れて行かれた時、ふと見た彼の笑顔に釘付けになってしまったのだ。
最初の頃は、保住のやり方や態度、仕草に戸惑って苦手だと思っていたのに、驚いてしまったのだ。その時のことを言っているのだろうか。
「あれは傷ついたからな!」
――子供か。ムキになって。根に持つタイプかな?
そんなことを思いつつ、目の前の彼を見ると、つい、心の声が洩れ出てしまう。
「可愛い……」
「え?!」
「やめてくださいよ。保住さん」
「え? な、なんだ? おれが怒っていると言うのに」
田口は箸を置くと、そっと体を伸ばして保住をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「こら! 今はそういう話ではないぞ」
「いいえ。そういう話なんです」
「なにを?」
「記念館で見ていたのは、あなたの笑顔に心奪われたからです」
「なっ!」
保住はこれでもかと顔を真っ赤にした。
「今笑ったのも、あなたが可愛いからです」
「お前!!」
田口は、抗議の声を上げた保住に口付けをした。
「は――」
同じものを食べているからか。保住は同じ味がした。冷たい唇を舐め上げ、それから口内も味わう。
「んんっ! ダメ!」
バチンッと顔面を平手で叩かれて、田口は渋々と唇を離した。
「飯が先だ!」
「そうでした。つい。すみません」
口元を拭い田口はしゅんとした。
「お前といると調子が狂う」
「では一緒に住むのはやめますか?」
「やめない!」
――素直じゃないんだから。
恥ずかしげに視線を伏せる仕草を目にするだけで、田口の胸は高鳴った。
――保住さんが好き。大好き。
好きが止められない。保住を前にして、田口の恋慕の念は止まらないのだ。
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