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第19章ー第164話 ここは、どこですか!?
「で、連れてきたわけか」
玄関で十文字を背負った田口を見て、保住は呆れた顔を見せた。
「十文字の自宅を知りません」
「今の時点での最良な策か」
「疲れていましたからね」
「だな」
むにゃむにゃしている十文字は幸せそうだ。彼をベッドに寝かせてから毛布をかける。その間に、十文字に連れて行ってもらった喫茶店の話をした。
「お前にとったら何事も勉強だな」
「本当です」
石田のところのコーヒーも美味しかったが、保住が入れてくれる玄米茶は美味しい。ほっこりとした。
「田口も大変だっただろう?」
「ええ。あなたの気持ちがよくわかりました」
「そう?」
保住は笑う。
「多分ですけど」
「係長になればもっとわかるだろう?」
「まだまだ先ですね」
「そんなことはない」
「まだまだです」
「いや。きっと、いつか。お前には抜かされる気がする」
「抜かしはしません。……隣には並んでいたいですけどね」
「変な奴」
田口の言いたいことがよくわからないとばかりに、保住は首を傾げたが、それはお構いなしだ。
わかってもらわなくていいことだからだ。自分自身がそうしたいだけ。田口は話題を変えた。
「今度、マスターが保住さんも連れてきて欲しいって言っていましたよ」
「その喫茶店?」
「そうです」
「そういう場所は苦手なのだが」
「そう言うと思っていました」
湯のみをテーブルに置く。時計の針は深夜になろうとしているところだ。ところが――。
「ここはどこですかー!?」
ダダダダと音がしたかと思うと、十文字が顔を出した。目が覚めたらしい。
「え?」
彼は目を瞬かる。
「えええ!?」
「起きたのか」
保住は苦笑いだ。
「喫茶店で眠り込んだからな。お前をおんぶして連れてきた」
田口の返答に十文字は目を見開いて呆然としていた。
「ええ!?」
十文字は慌てて田口の元に駆け寄って、彼の服をぎゅうぎゅうと握って前後に振る。これでは謝罪しているというより、責めている感じだ。
「お、おい!」
「なんてことだっ! お礼するなんて言ったのに。おれが世話になってるじゃないですかっ! なんで起こしてくれないんですっ!?」
「いいだろう。それくらい。別に」
「なんてことでしょうか……」
「疲れていたのだ。仕方あるまい。お前もお茶でも飲むか?」
愉快がって見ている保住。彼の声に、十文字は余計にはっとして顔を上げる。
「えっと、係長まで!? なんで!? え? えええー!?」
「うるさいな。十文字。ここアパートだから静かにして」
「すみません」
田口も苦笑いだ。まあ目が覚めればこうなることは予見していたことだが……。
「えっと、あの」
「おれ、係長のところに居候中なんだ。だからお前を連れていく先がなくて。ここに連れてきた」
「そ、そうですか。そうでした。そうでした。田口さんと係長は……」
「田口、話たのか?」
保住はじろっと田口を見た。
「自分から話したわけでもありません。十文字に感づかれていただけです。おれ、そういうのは口が堅いつもりです」
「口が堅い分、顔色とか態度でばれるけどな」
「ぐ……それは否定できません」
「別に構わないけど」
保住はそう言うと十文字を見た。
「今日は遅い。泊っていけ」
「えっと。でも。いいんですか」
「いいだろう。今から送っていくほうが面倒だ」
「そうだね。大したところじゃないけど」
田口は良かれと思って言うが、保住はむっとした。
「悪かったな。大したところじゃなくて」
「いや。そういう意味じゃなくて……」
「お前は謙遜しすぎる。ここはおれの家だぞ。気に食わないなら出ていけ」
「保住さん、そんな意地悪ないじゃないですか」
「そうか? ならそんな口きくな」
二人のやり取りに十文字は吹き出す。
「失礼な奴だな。笑うなんて」
「だって、田口さんって、こうしてプライベートになると、すっごく喋るんですね!」
「え?」
「職場では黙って仕事していますって感じなのに。係長といいコンビです」
「お前に評価される筋合いはないっ! そんな偉そうな口を叩くなら、もう少し人並みに仕事をしろ」
保住はぷいっとそっぽを向く。
「本当に素直じゃないんだから」
十文字はそう呟いて首を引っ込めた。
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