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第9話

結局、法月と俺は朝に比べれば若干弱まった雨の中、ビニール傘という貧弱な武器を片手に駐車場へと向かったのだった。 “近くまで持ってきます”なんてデキる部下代表のような台詞を吐き、飛沫と共に走り去る法月の背中を目で追う。 と、程なくして現れたのは こんな大雨の中でもしっかりと水を弾いて黒光りする、それは立派な高級車だった。 俺と同い年…。 しかも今年来たばかりの新人社員が…何で俺より何倍も良い車に乗ってんだ。 それだけ気が遣えるならここももうちょっと何とか出来たろ。 「どうぞ、早く乗ってください。 もっと濡れてしまいますよ。」 助手席を軽く叩いてそこへ座るよう促されるが、何となく負い目を感じ、後部座席のドアを迷わず開けた。 「え、そっちですか…。別に構いませんが。」 「だったら構わずに行け。」 運転席から大きなため息が聞こえたが、そんな事は知ったこっちゃない。 ワイパーなど使わない方がかえって周りが見えるのでは無いかと思える程水を弾くフロントガラスに感心していれば あっという間に俺が週3日は昼時に訪れているであろう○ーソンへ到着した。 法月は持ってきた弁当があるだろうし。一緒に食うとは車内でか?いやこの車で食える飯なんか無いぞ。間違って落としでもしたら金を要求されそうだ。 10秒でチャージできるアレでも買ってくるかとドアを開ければ、何故か法月も俺と揃って車を降りる。 「……お前は弁当用意してあるんだろう。」 俺をバカにするようなあの発言、かなり根に持っているんだからな。 俺はネチッこい上司なんだからな。 覚えておけ法月。 「今日は僕もコンビニの気分なんです。」 「……はぁ。」 もう訳が分からない。 今まで必要最低限の関わりしか持ってこなかったが…法月という男、余程の変わり者のようだ。 その残された弁当はいつ食べるのだろうか。 「温めはどうされますか?」 「お願いします。あまり熱くしないで。 フォークと…あとスプーンもつけてください。」 カルボナーラとカフェオレを購入する法月を肩の後ろから覗き見る。 コンビニのパスタ如きににスプーンまで要求するとは、こいつは洒落た食い方をする奴だ。 背筋に虫が這うような悪寒に、思わず身震いをした。 「お待ちのお客様こちらへどうぞー!」 む、隣が空いたか。 今日は相棒を諦めてまで得た視力があるのでこの距離でもよく見える。そこに立つのはいつもの女性店員だ。 「…あと56番1つ。」 特に前を向くこともなく、いつの間にか覚えていた自分のそれが陳列されている棚の番号を呟く。 いつだったか強制的に登録させられ、ついでにフルネームの記入を強いられたポイントカードを差し出せば、女性店員の手がぴたりと停止した。 「あ、あれ?竹内さん…。 え、うそぉ…!全然わからなかったです!」 「…あぁ、そう……。」 女性店員はなんだか落ち着きのない様子で、57番を取って、落として、慌てて56番を取って、また落としそうになって、ようやく俺に差し出した。 マスクひとつでここまで変わるものだろうか。 というか、一体今までどれ程話しづらい存在だったんだ、俺は。 そして最後に釣りをもらおうと手を伸ばすと、店員は出てきたレシートに何やら数字を書き込む。 小銭と共に手渡されたそれの裏面を見ると──。彼女のものかと思われる電話番号……だろうか。そうだよな、この数字の並びと桁数は。 ……なんなんだ。新商品の告知でもしてくれるのだろうか?そうならありがたい。 レシートなど普段ならば受け取らないかその場で捨ててしまうのだが 流石に個人情報の書かれた紙切れともなれば簡単に捨ててしまうのは人間性を疑う。 仕方なく渡された小銭もろとも財布に突っ込んでおくことにした。

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