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第11話

実は気になっていた。 今日の法月は…というか、仕事以外の会話をした覚えも無いのが正直な所だが、こいつは俺に対して何度も何度も “いつも見ていた”発言をしてくる。 それはもう、お前はストーカーなのかとツッコミを入れたくなる程に。 しかし俺の顔が青ざめて行けば行くほど目の前のストーカー男の顔は、どこか紅潮していくようにも見える。 俺達が腰かける席の、窓を隔てたすぐそばに1台の乗用車が駐車した。 ……ああ、これは奴がブレーキランプに照らされただけか。 そうに違いない。そう思わせてくれ。 でなければ今この状況で顔を赤らめる意味がわからないから──。 「好きです竹内さん。上司としてではなく、一人の男性として。…恋愛対象として。」 ……………? 珍しいことが起これば、明日は嵐が来る なんて言われる事もあるものだが、生憎嵐ならば朝から既に来てしまっている。 地面を叩きつける雨音が より一層強くなったような気がした。 「…待て、ちょっとよくわからない。俺は男だぞ。」 「ええ、勿論そんなことはわかっています。 僕、性別には縛られないタチなので。」 「…いや、あのな……。」 さも当たり前の事のように、すらすらと述べられてしまえば 逆に俺が可笑しいのかと錯覚するのだから不思議だ。 脳みそが宇宙まですっ飛んで行った俺を他所に、法月は更に続ける。 「大丈夫です。何も竹内さんを取って喰いたいだとか、そんな下品な事を言っている訳ではありませんから。 その美しい姿をいつまでも眺めさせていただければ、今はそれで満足ですので。」 今朝から俺を襲い続ける偏頭痛とはまた違うグラつきが、思考回路をピシャリと止める。 俺の頭の中はもうパッパラパーだ。 性別には縛られない…ということは こいつはゲイ…ではなくバイ?というものなのだろうか。 その他とは少し違うセクシャリティを持つ法月の標的となったのが、俺というわけか。 だが聞き捨てならない言葉があった。 “今はそれで満足”ってなんだ、今は……という事は 今後満足しなくなる時が来るとでも言うのか。 いや改めて何を言っているんだこいつ。 ますますわからない。 俺の恋愛対象は女性だ。そこは譲れない。 俺も男に対して好きだと思うことは確かにある。 が、それはいつでも100%全てにおいて、リスペクトやライクを意味するものであって。 しかし法月が俺に対して言ってきた“好き”というのは恐らくラブを意味するものであって……。 「あまり考え込まないでください。 竹内さんに気持ちを押し付けようだなんて思っていませんよ。」 最後のソースをたっぷり絡めたパスタを巻き上げ、所作からして育ちの良さを滲ませるそれで口へと運ぶ。 どこからどう見ても、女性に好かれる男だろうがお前は。 「──ただ、世の中にはそういう人種もいるという事と、僕は竹内さんの事をそういう目で見ている事をわかっていただければそれで。」 「………あぁ。」 「あれ。もっと驚いてもらえるかと思ったんですが…。流石竹内さんですね。そんなところも素敵です。」 あぁ、だめだ。 こいつに何を言っても無駄だ。 俺の中の何かがそう悟った瞬間であった。 本気で驚けば、声も出ないという特殊な性質を知れた事には感謝しよう。

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