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第33話

「格好悪い所見せてすいません…。」 先に口を開いたのは佐々木だった。 その手は今もなお、俺の袖を掴んでいる。 「別に良い。俺だってこんな背格好を見られたところなんだ。お相子で良いだろう。」 「………ん、マジ可愛いスもんね。竹内さん。」 おいこら。人が慰めてる時に何て事言いやがるんだ。 空いている方の手で肩を小突くと、佐々木は力なく笑い、また「すいません」と謝った。 「あー…昔とか……何かあったのか?トラウマというか…その、雷が、苦手な理由とか…。」 そこまで言ってハッとする。 たかが店員と客の関係で、こんなに踏み込んだ話を持ちかけてしまっていいのだろうか。 これは距離感を間違えた、と。 だめだ。この真っ暗闇の中では、俺自身もあまり冷静とは言えないのかもしれない。 それだけじゃない。 今までこの家には誰一人として入れなかったのだから、自分のテリトリー内に他人がいると言う事だけをとっても通常とは言い難いわけで。 仲良くなって呼んだんじゃない。人助けの為なんだ。そこを履き違えるな俺の脳味噌よ。 「いや、すまない…何でもない。無理に聞こうなんて思ってないんだ…。」 「はは。気遣わなくても大丈夫っすよ。 …ナイフの事、思い出したならあの時俺がどんな状態だったかも覚えてますか?」 「………あぁ。」 佐々木がぽつり、ぽつりと話し始めた話。 正直俺には想像もつかない程壮絶で…そんな話をさせてしまうきっかけを作った自分を強く恨んだ。 「…恥ずかしい事なんスけど、俺あの頃ずっと虐められてて。 一度だけ、学校の掃除道具入れに閉じ込められた事があったんスよ。」 身動きもろくに取れない狭い空間。 しかも、いたずらに使われないよう鍵付きの物だったという。 担任の教師が信頼を置いて鍵を渡したのが当時のクラス委員。あろうことか、佐々木への虐めはその子供が主犯格だったのだ。 恐怖のあまり声を出すことも出来ず、そこへ閉じ込められたまま明かした一夜。 その日も、今日のような嵐が吹き荒れていた。 いつまでも動かない雷雲。 暗く、閉ざされた空間。 聞こえるのは、今にも割れそうな窓を叩き付ける衝撃音。 まだ小学生の子供が、そんな悍ましい体験をしてトラウマにならないわけがない。 俺の中の普通では考えられない事を少しずつ口に出す佐々木に、胸が痛んだ。 今、佐々木は一体どんな顔をしているだろう。 明かりが付いた時、俺は佐々木にどんな顔を向ければ良いだろう。 「──それからどうしても、暗くて狭い所とかで雷鳴るのだけは無理なんスよ。条件揃っちゃったっつーか…。」 情けない。そう自身を卑下する佐々木の声があまりにも苦しそうで つい、大きな身体を抱き寄せた。

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