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第62話

家に着いてしまえば、特にやる事も見つからずソファに腰かけた。 考えてみれば、平日のまだ太陽の沈みきらないうちに家に帰っている。…なんてのはそりゃもうびっくりする程久しぶりだ。 それならばやる事が見当たらない自分にも納得がいく。 帰る時間に関係なく、普段から殆ど見ないのに、この時間帯にどんな番組がやっているかなんて正直一つもわからない。だから、わざわざ冒険してみる気にもならない訳で。 これから人を呼ぶのだから掃除をしようかと周りを見渡したとて、生活感もない、ただ眠るためだけにあるようなこの家では慌ててする必要もない。多少棚の上に積もった埃を払ったものの、散らかる雑誌やゲームも無いので10分もあれば十分だった。 ………。 困った。 今日も一日世話になったスーツ一式をハンガーにかけ、同じく世話になった使い捨てマスクをゴミ箱に投げ入れる。 あ、佐々木…来るのに、マスクは── まぁいいか。俺が独り言をぶつぶつと唱えない様努めれば問題はない。 だがその行為自体、佐々木に指摘されなければ全くの無意識だったのだが。 果たして意識したところで無くす事は出来るのだろうかと疑問だけが残る。 …いや、疑問といえば。こんな小さな事(決して俺にとっては小さな事ではないが)よりも、不思議でたまらなかった事があるではないか。 どうして佐々木はいきなり俺の家に来る、なんて言い出したのだろうか。 今日は天気も悪くないし、それに明日は火曜で一般的な高校生ならば学校はあるし。 勿論俺の仕事が休みというわけでもない。 あの圧力につい首を縦に振ってしまった俺だが、一体彼が何の目的でここに来るのかがわからない。 遊び道具の一つもない家が楽しいものか。 …ま、まさか佐々木にとってはもしや俺が遊び道g(( いや、考えるのはよしておこう。 …んー…でも遊ばれるな、よく。 笑われたり、からかわれたり、タルトを食わされて、口元を拭われたり。あいつは口癖のように俺に対して可愛い可愛いとか言いやがる。 これを遊ばれていないと思える程俺の頭は花畑じゃない。 って違う。そこじゃない、今はそこじゃなくて。 そこでふと、この部屋でした佐々木との会話を思い出した。 あぁ、そうか。家に帰ってもどうせ一人…って言ってたな。 だからラーメン食いに行ったんだっけな。 記憶を辿ればすぐに納得が出来た。つい最近聞いたばかりの佐々木の言葉。 ほんの、二日前も佐々木はここに居た。 しかしアルバイト終わりなんて、こんな所にまで来ていれば帰宅する頃にはどうあがいてもめでたく補導対象だ。何を考えているんだ、佐々木は本当に…。 週の頭から他人の家へ泊まる気でいるのだとすれば、流石に教育上よろしくない。友人の家でも、親と交流のある相手の家でもなくただの買い物客の家なのだ。 いくら俺が悪気なく犯罪に手を染めているとしても、そこには少なからず良心というものがある訳で。 それにもし、佐々木が泊まるつもりで来ていたら。 ……来て、いたら。 下半身に直に繋がるあの出来事を、思い出さずに夜を過ごす事はもはや不可能だ。

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