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第64話

自分1人…少なくとも、俺の身長では寝ぼけていれば溺れる程広く深い浴槽につかる。 体格の良い父親がわざわざオーダーメイドで取り付けて貰ったという、それなりに値段のするものらしい。 専用風呂まで付けておいて、彼らは一体どこへ行ったのか。 俺1人では少々大きすぎるせいで、風呂如きに馬鹿にされている気がしてなんだか悔しいんだよ。 そんなつまらない理由で身長が止まった学生時代から、湯船に浸かることは殆どなかった。 そもそもサイズの合う蓋すら無いので、予約機能を使うのも気が引けるから仕方ないのだが。 父親に似ればもう少しは背が伸びてもよかったものを、150センチにも満たない母親から産み落とされた俺はこの立派なバスタブを使いこなすことは出来ない。 まぁその両親も今となっては連絡を取る機会もない訳で。 別に複雑な家庭事情があるでもないが、訳あって両親はこの家を残して出て行った。 欲を言えば一緒に住むような女性の1人や2人… ん?2人はダメだ。 …を、作ってみたい人生だったがそれがどうだ。 なんとアラサーに足をかけた大の大人は、高校生の男をこれから招き入れようとしているではないか。 一体どうしてしまったんだ俺の人生。 普段なら風呂なんて汗を流す作業スペースなだけであり、長くても10分くらいでおさらばだ。こんなにグルグルと考え事をした事などなかった。だからこそ、ほかほか温まる身体とは裏腹に頭は冷え切っていく。 うん、湯船に浸かるのは良くないな。 俺が俺を客観的に見たら終わる。 自分が犯罪者だと自覚するのは色々とキツい。耐えがたい。 慣れないせいで火照った身体をなんとか起こし、いよいよ自責の念に駆られて泣き出す前に風呂を出た。 少し長風呂しすぎただろうか、いや。 これが普通なのだろうか? 少なくとも5分が通常である俺からすれば、かなりの長風呂であったことに変わりはない。 なんとなく頭もぼーっとして、いわば半のぼせ状態。 ノロノロとバスタオルを擦り付けていれば、もう随分と耳にした記憶もないインターホンが鳴った。 ………嘘だろ、早すぎないか。 ここに、それもこの時間に、訪ねてくるであろう人物は1人だけなのであって。 凸るぜ隣のなんとやらだの一晩泊めてくれだのそういう類の人間が来るには少々入り組んだ場所にあるから現実的ではないのであって。 ぴんぽーーん 「ぴんぽんぴんぽんたけうちさーんっ!」 鳴らしながら声を発してくるタイプは初めてだ。近所の迷惑も考えろってんだ。 というよりもはやわざとだろう。…間違いない、奴だ。 途端にぼーっとした頭はフル回転でタオルをしばき、積み上げられた着替え一式に目を向けて──。 言葉を失う。 「たけうちさーーん、いるんですかーいますよねーェたーけーうーちーさーぁあんドンドン。」 やべ。パンツ、忘れた。

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