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第101話

俺から発せられたアホくさい声の直後、歯磨き粉のミントを漂わせる佐々木からギャン詰めを食らったのは言うまでもない。 「…つまり、昨日のことは何も覚えてないと?」 「あぁ……まったく。」 何がどうなって今のこの状況なのか 申し訳ないが一つも理解が出来ない。 というか…もしや、まだ夢の中にでもいるのだろうか。 そんな考えが脳裏に過り、こう言う時のお約束である頬抓りをしてみた訳だが…。 「いってて!痛い!何するんスか!」 「ふむ…夢じゃなさそうだな。」 「そういうのって普通自分の頬っぺたでやりません?!」 これは紛れもなく現実なのだと 佐々木の痛がる様子から見て取れる。 再度立ち上がろうとベッドに手をつくと、そこに伸びてくるのは佐々木の手で。 痛んだ足に力を込める寸前、いとも簡単に身体を抱き上げられてしまった。 「もー。足怪我してんだから無理しちゃだめだって。どこ行くんスか?」 「え、いや…あの、煙草をだな。」 「あー、ソファの方行きますか。」 「…ん。」 何とも情けない姿だ。 毎度の事ながら、善意の塊であるコイツの行い一つ一つが俺にとってはマウントを取られているように感じてならない。 そもそも何故、足が痛い事を知っているんだ。 昨夜からそうだったのか、それとも…佐々木が暴力をふる……う訳無いよな。流石に。 あぁ、わからん。 慣れない日本酒なんかを飲んだせいで、頭は重いまま、なかなか働いてくれない。 笑ってしまう程丁寧に俺を降ろした佐々木は、腕の長さを見せつける仕草をすると…まぁ簡単に言えば伸びただけだが。再び洗面所の扉の向こうへ消えていった。 すぐに聞こえてきた水の音を聞くに、まだ口をゆすぎ足りなかったらしい。 随分歯磨き粉のにおいがしたからな。突然のドンガラがっしゃんに慌てて駆けつけて来てくれたのだろう。 …優しい、奴だよな。本当に。 追いかける標的のいなくなった視線は、煙草に火を灯す瞬間を見届けると改めて室内の様子を伺い始めた。 ベッドからは死角となっていた床も、赤と黒のチェック模様の洒落た絨毯で 改めてこの建物が何をする為の施設であるのかを確かめさせられた気分だ。 どうせアレだろう。 さっきはまともに見もしなかったベッドのヘッドボードには、BGMの音量や間接照明を調節する機械や如何わしい小袋なんかが数個備わっているのだろう。 年齢制限だって一応あると言うのに どうして佐々木はわざわざここを選んだんだよ。 また犯罪者だ。更に犯罪者だ。いくらでも出てくる。 法月がハンカチ片手に神のお言葉を掛けてくれるのも限度があるだろうからな。アレに見捨てられたら今度こそ社会的に抹殺される…。 完全に諦めモードに入りつつも、いたいけな10代の若者に見せるべきで無い避妊具の類を回収しようと目を移した時。 「うっ、げっほ!エホッガホ…!!」 目にしたヘッドボードが 何処からどう見ても“使用済み”である事に気付いた。 そういえば、ここではそれが普通だという概念にやられて全く疑問を抱かなかったが 佐々木はバスローブを羽織っていた…気がする。 恐る恐るベッドの脇を見ると、佐々木のものと思われる衣服に、ゴミ箱からはみ出たティッシュの端。 吐き出す予定の煙を勢いよく吸い込んだために、案の定肺の浅いところに詰まる地獄の苦痛は、罪を犯した俺への報復なのかとすら思えてしまう。 は?いやいやいや、嘘だろ。勘弁してくれ。 ドッキリ大成功〜とか言ってくれ、な?佐々木。 …そうでなければ、あの…封を切られているゴムの袋に 説明が、つけられない。

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