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第102話

これは一体どう言うことだ。 何が起きた、何があった。 急激に冷え切っていく脳内。 現実を受け止める力量など備わっていない俺の視界は、白い煙が濁して。 けれど、そんなものは直ぐに何処かに消えてしまうのだ。 次の煙草に火をつけて、また見えなくさせて、また映って。そんな無意味な行為を何度も繰り返した時、少しずつ蘇ってくるのは昨夜の妙にリアルな夢だった。 ……え、は? いや。ちょっと待て。昨日のアレはまさか…… 現実? 途端に額から嫌な汗が噴き出す。 適温の筈なのに、一度出始めたそれは止まらず だからといって暑い訳ではなく、むしろ身体は寒気を覚えて震えていた。 …辻褄が、合ってしまうんだ。 佐々木が今この場にいる事も どうしてか、俺の名を知っていた事も。 俺に名前を呼んでくれないのかと言った事も、全て。 嘘だ。そんなわけ…、有り得ない。 だってこれが本当だとしたら俺は佐々木に……気持ちを…っ。 震える手で新たな煙草を取り出した。 もう酸欠で頭がクラクラしている。 乾いた口では正直燃えた紙の臭いが残って不味いし、知らぬ間に床に転げ落ちた灰を踏んで何とも言えない不快感を味わった。 痛む足の事も忘れて駆け出した行き先。 それは数分前に目覚めたベッドだ。 きっと誤解。早とちりしてしまっただけ。 安心できる何かを探し求め、肺全体に煙を行き渡らせる。 だがそこに待ち受けているのはやはり…証拠の散りばめられた光景で。 開封済みのゴムの袋と、乱暴に抜き取られたのかカバーのよれたティッシュケース。 振り返れば見える鉄格子の下には…もう一つ、あまり馴染みのない小袋。ゴシゴシと目を擦り、じっと見つめていると…パッケージに書かれた文字が少しずつ見えてくる。 ら、ぶ…ろーしょ((((( 待っっっっっっってくれよオイ!!!! 乗り上げたベッドの上で、人はあまりに信じ難い状況を目の前にすれば声を失うと学んだ。 そして最後の希望に縋り、決定的証拠を追いかけてしまう事も──。 丸められたテッシュがいくつも放り込まれているゴミ箱に、恐る恐る手を伸ばしたその時だった。 恐らく室内用のスリッパをスパン、スパンと呑気に引き摺る足音が聞こえ、ヒュッと手を引っ込める。 「あ、暁人さんもう動ける感じ?何してんスか? ……もしかしてー、まだケツ拭き足りなかったスか。」 「………へ?ぇ、ぃゃ…ぁ……。」 「んー?何スか?聞こえね。」 悪戯が見つかった子供なんかは、わかりやすく挙動不審になったりするものだが いい歳をした大の大人のこの男。今、まさにその状態である。 何せ突然の事に驚いた拍子に ゴミ箱から丸まったティッシュを掴み取ってしまったのだから。 だが、幸運な事に佐々木は俺を用済みコンドーム漁り変態芸人とは思わずにいてくれたらしい。 …まぁ、そのお陰で誤魔化しの効かない明らかな証言をされてしまったのだが。

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