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第134話
「本社からわざわざありがとうございました。」
「いえ、此方こそお時間を取らせてしまいすみません。」
「ではお気をつけて……〜〜。」
挨拶まで完璧に済ませちまうんだもんな。
受付嬢はキラキラと目を輝かせ法月を引き止めていたいようだが、俺が扉に手をかければ自動的に付いてくるようになってるんだ。悪いな。
本日最後の仕事を無事に終え、あとは会社に戻るだけ。
直帰でも構わないと部長からメールが届いていたが、この時間ならば定時内に帰社する事も可能だろう。
先程の菓子があれば更に土産を買い足す必要もないので、支店との打ち合わせ前に会社へ戻る旨を返信した所だ。
開封した形跡がないところを見るに、普段俺に好き放題押し付けている雑用をやらざるを得なくなりメールボックスを覗く暇もないのだろうか。
…はは、なんだかいい気味だな。
「おっと、すみません竹内さん。電話が……。
はい法月です。あっ、部長!……はい、ふふっはい…了解しました。伝えておきます。」
立ち止まり、スマホを片手にクスクス笑っていた法月は、2、3歩前に出て待つ上司に小さく手を合わせて駆けて来る。
その星マークの似合う合掌は、まさかゴメンネのつもりだろうか。いよいよ部下にも見下され始めたのか、俺は。
「…部長、なんだって?」
「メールに返信しようと思ったら、キーボードにココアをぶちまけてしまったらしいです。おっちょこちょいですよね。ははは。」
全然暇してんじゃねーーーか。
何がココアだ。誰も可愛いなんて言ってくれんぞ。
というか、俺への返事なら俺に電話をかけるのが筋じゃないのか。なんだあのハゲ野郎。
「竹内さんは愛想ないから電話したくないんですって。まったく、お茶目さんですよね部長も。」
「…はぁ。」
俺の心が読めるエスパーは、笑いを堪え切れぬまま口元を手で覆う。
…この際本音が口に出てしまっていたかどうかは放っておこう。
どうせ戻ったら俺に押し付けることを前提とした面倒な業務が色々と山積みになっているんだろう。そう確信しているのだから、多少の悪口は多めに見てもらえる…筈だ。
流石に今日は、いくら法月とはいえ手伝ってもらう事は出来ないからな。
彼の口から聞いた娘の話だけでも、十分寂しがっているように思えた。俺にとっては何でもない一泊二日の出張も、家族のいる法月には大ごとだったに違いない。
帰ったら目一杯甘やかしてやればいいさ。
俺との妙な戯れなんか記憶から消し去れるくらいに、な。
平日昼過ぎのガラガラの指定席で何故隣同士に拘るのかはさて置き、法月の購入した切符を片手に上り新幹線へ乗り込んだ。
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