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第135話

随分よれてしまった湿布を新しいものに貼り替え、会社に戻ったのが17時半。 同僚が続々と仕事に切りをつける中、違和感が2つだ。 一つ目。 「お、早かったねぇ二人とも。」 何故部長は法月の席にいる。 「部長、こちら先方から頂いたお菓子です。明日皆さんで分けてください。」 「お〜豪華だね、ありがとう。明日には新しいキーボードが届くんだけど…今日は席借りてるよ。」 「はい。構いませんよ。」 構いませんよ、キラっじゃないんだよ法月。 こいつがそこに居座ると俺にとってろくな事がないんだ。 まあ帰り支度をするお前を引き止める事はしないがな。 そして二つ目。 「……部長、俺の机に乗っている山は一体…。」 「あぁ!それね!赤のインクが切れちゃって印刷出来なかったんだよ。 すまないが直接角印を押して郵送しておいてもらえるかな?今日中に出す予定だったんだけどこりゃ仕方ないよねえ!」 「………やって行きます。」 この野郎、俺が戻ると言ったのをいい事にサボりやがったな。 近くのホームセンターにでも赤インクくらい売ってんだよ。ココアを淹れる暇があるなら買い出しくらい行ったらどうだ。 「助かるよ〜…あとコレ、前期の報告書なんだけど最近老眼が進んだのか目がしょぼついていけない。」 「……最終チェックは頼みます。」 「助かるよ〜〜!」 ほら見たことか。 法月のキーボードをパクるんじゃなく法月のPCで打ち込んでいるのが何よりもの証拠だ。 お前、残りを俺にやらせるつもりだったな。 今日は明るいうちに帰れると思ったのに。 押し付けられる事は覚悟していたがまさかここまでとは。 俺だって暇じゃないんだ。 先延ばしにしても構わないと判断した雑務は他にも山ほどある。今日中にやりたい事も本当は沢山ある。 勿論一番良いのは、部長に引き続き書類を作成させるか他の誰かに頼む事なんだろうが──。 「竹内くん、よかったら少し手伝おうか?」 「大丈夫です。」 「あー…おっけ〜。お土産ありがとうね〜。」 後ろで法月の盛大なため息が聞こえたのは知らんぷりだ。 それ程使い込んでもいない癖に、まるで酷く凝り固まっていたみたいに首やら肩やらをぐるりと回し、小躍りでもし始めそうな軽やかな足取りで席へ戻る部長。ありったけの恨みを込めて唾を吐いてやった。 …心の中で。 自身のディスプレイをじっと眺め、ころころと何度かマウスを転がした法月の髪が俺の耳へ掠る。 「…この量、本当に大丈夫ですか?僕も残りますよ。」 絶妙な鼓膜の振動と生ら温かい微風に、思わず跳ねた肩に気付かれないことを祈るばかりだ。 「帰りを待っている子が居るんだろう。向こうでも世話になったし、今日はもう帰れ。何とかなる………多分。」 「多分て。」 んー、と首を傾げながらもキャリーと鞄を持ち直した法月は、付箋に“フレッフレッ(兎らしきイラスト)”と書き残して事務所を出た。 ……こんなにムカつく応援は初めてだ。 今日ここから出られるのは何時になるかな。 日中に浴びた紫外線にやられたらしい、奥まで痛む目を擦って引き出しから朱肉を取り出した。

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