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第137話

見慣れた風景、そばの街灯、溢れる溜め息。 少し前の俺ならば、今日みたいな日は佐々木の笑顔を見るためにここへやって来ていただろう。 聞き飽きたメロディに歓迎され、月替わりでMCの替わるラジオを聞き流して、真っ直ぐにレジの前へと向かう。 いつもなら、この辺りでよく笑うアイツが「今日もお疲れ様でした」と煙草を用意して待っていてくれるのだ。 それなのに今日は静かで。 居るわけがない事を承知の上でやってきた訳だが…というか、今会うのは気まずいのが本音なのに。こうしていざ佐々木の居ないこの空間に来てしまうと、何とも言えない気持ちで堪らなくなる。 …寂しい、とか。 何を考えているんだ。 朝話したばかりなのに。 スマホを開けば今朝のやりとりが一番上に残っているのに、俺の脳味噌はバカにでもなってしまったか。 ……あの日から避けていたのは俺の方だって、忘れたのかよ。 「はぁ。」 無意識に呑み込み過ぎた空気を力無い声と共に押し出し、いつまでもスッキリしない頭を揺さぶった。 きっとこれは、メンソールも入っていない味気ないのに臭いだけの煙草なんか吸ったせいだ。 そうだ。だからちょっとおかしいのだ。 誰だ、あんな不味いものを買い込んだのは。 俺?いやいや、記憶がないのだから違う。 と、先ほどからレジの前で立ち尽くしながらあれこれ独り言を連ねているのだが ……いくら待っても店員が来んぞ。 髭オーナーの車はあっただろうか。 いやダメだ、気にもしていなかったから覚えていない。 こういう時は、何かアクションを起こすべきだろうか。声を上げれば気付いてもらえるか。 便所掃除でもしているのか?この時間帯にもなれば確かに客は少ないだろうが、これじゃ盗りたい放題だ。 いや、勿論俺はそんな汚い事はしない。これ以上罪が増えたら檻で老死も通り越して処刑まで有り得るからな。 仕方ない、少し歩くか。 次に向かうのはバックヤード方面。客として立ち入れるギリギリまで迫って覗き込めば、僅かに人の影が2つ程蠢いて見えた。 よし、ここで声を掛ければ流石に気付いてもらえるだろう。 息を吸って…吐く。 もう一度大きく吸って──…ゆっくり、吐く。 ってこれじゃ単にコンビニの隅っこで深呼吸をしているおっさんじゃないか。 本当に、こんなで俺はよく5年以上もサラリーマンが出来ていると思う。人を呼ぶ時に掛けるべき言葉もわからない。 “すみません”なのか、“お願いします”なのか。どちらでも良いという意見は今は聞いていない。 今の状況ですみませんと言うべきは俺ではないし、だからといってお楽しみの所だった場合邪魔をしてすみませんの意味が含まれる。 ただ、すみませんにはすみませんが返ってくるものだ。そうしたら俺は更にすみませんを重ねる事になるだろう。 だったら「お願いします」か?会計をお願いすると言う意味では正しい台詞だと思うが、俺を見てみろ。何一つ手に持っていないではないか。 レジに人を配置させてから商品を決め始める変わり者だと思われたら明日から一生寄れなくなってしまう。 どうする、何が正解だ。 そもそも正解を探し当てる前にこの際煙草は諦めてさっさと帰ったほうが良いのではないか。 妙な居心地の悪さを感じ、完全な諦めモードに突入するカウントダウンが始まったその時、一つの影がゆらりと立ち上がった。

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