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第139話
帰り道は勿論一人のつもりだったので、大荷物とはいかないまでも助手席を陣取る鞄。
外からも見えるその光景に、今日は後部座席を選んでくれるだろう…そう思った俺が馬鹿だった。
「この辺全部後ろに動かしていいっスかー?」
「…ああ。」
佐々木はこれくらいじゃ諦めない。
むしろ、私物に触れて良いかの確認をする気遣いが出来る高校生だ。
近頃の若者は、と歳を重ねた人々は言うが、コイツにそれは当てはまらない。
結果的に佐々木をすぐ隣で感じる事が出来るのだから、俺に損は無いんだ。
「…何かこの前乗せてもらった時と匂いが違う。」
相変わらずワンコだな。
一回や二回乗っただけの車のにおいを覚えているのかこの男は。
これはきっと、女性がシャンプーを変えたり前髪をミリ単位で切った微妙な変化にも気が付いてやれるタイプだ。学校でもさぞかしモテるんだろうよ。
「ここ来るまで違う煙草吸ってたからな。不味かったが。」
「えーマジ?あの黄色いやつ?」
「ああそう…ってなんでお前知ってんだ。」
「だって向こうで俺に言って来たじゃないスか。75番買ったのに〜って。」
………は?
向こうで?何を言っているんだ。
いつもの煙草が75番に置かれているのは佐々木の居るこのコンビニなのであって、別の場所で75番を指定して同じ種類のを買える訳がないだろう。
どこの誰がそんな理解不能な奇行を。
さっぱり身に覚えがない。
「ま、覚えてないんでしょうけど。」
「…ぁわ、悪い……。」
「んーん!俺そういうの引き摺らないから大丈夫っスよ。てか車運転するのは平気なの?」
とりあえず空白の数時間の件はなるべく早めに忘れ去っていただきたいものだ。
俺が覚えていない事も確かに存在している。と言う事は、俺は俺の知らないうちに、佐々木に変な事を言った可能性も有りうると言うわけで。
だが裏を返せば、夢と現実との線引きすら曖昧な以上、俺自身言ってしまったと思った事も佐々木は聞いていないのかもしれない。
酒で失敗した事は…そこまで無かったと思うんだがな。
散々酔っ払って夜行バスに乗り込んだ直後に寝ゲロした事と、二日酔いの足でトイレを探してようやく見つけた店の入り口でゲロったくらいしか。
それも全て20歳になりたて、若かりし頃の過ちだ。
……佐々木にゲロを浴びせて居なければ良いが。
エンジンをかけ、緩くアクセルを踏む俺の足元を見て、佐々木はまた心配そうに眉尻を下げる。
敬語と言うべきかはもはやわからないが、多少は丁寧に話す言葉遣いと、優しげな親しみを込めた口調。交互に来るのは辞めてもらえないだろうか。
所謂ギャップ萌えに絶賛苦しみ中である。
ワンコな舎弟か、素の佐々木伊織か、どちらか片方にしてもらわないと…困る。
…あぁ、折角買えたそれのフィルムが剥がせない。
顔が熱くて、マスクが取れない。
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