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第148話
まさかこんなにも早く、心の準備もしてないうちに名前を聞くだなんて夢にも思わなくて。
自ら発した声が耳に届いても、暫くそれが俺の吐き出したものだとわからなかった。
口元に手を当てながら俯く竹内さんの顔つき。
これ何だろうなー、絶対隠し事してる。風呂から出た時マスク外しちゃったもんね。独り言言わないか不安?
マジでやましい事あったやつだろ。
こうなった竹内さんほどわかりやすい人はこの世に居ない。
バレたくない事あるんなら、是非隠し方の勉強をして欲しい。
聞いてはいけない事のようで、でも聞かずに終えるのは我慢出来ない。
胸が痛くて、押し潰されそう。
「あ、あの…佐々木。」
「……何。」
「箱……ぺしゃんこだぞ。」
「あ。」
先に押し潰されたのは、俺の心臓じゃなくてあいつが買った箱でした〜ってか。
あいつごと潰れちまえよ。
とか別に…思ってないし。
「っはは、…んません。ちょっとびっくり…しただけ、なんで。」
「そうか…。」
隠し方の勉強を、なんて言ったやつ誰だよ。俺が隠せてない。流石にこれには竹内さんも違和感があったみたいで、難しそうな顔してる。
これじゃ折角竹内さんの表情も柔らかくなったのに台無しじゃん。
聞き上手にならないと。受け止める覚悟をしないといけないんだ。
「俺、さ…貼ってあげるよ!意外と自分でやるの難しいじゃん?」
竹内さんは、じっと自身の足首の辺りを見つめると、こくんと静かに頷いた。
普段なら、彼の発した言葉は絶対に聞き逃さない自信がある。だが今だけは、もし何か言っていたとしてもちょっと聞き取ることが出来なかった。
それだけ動揺してるんだ。
それだけ竹内さんを手に入れたい。好きでたまらない所にまで来てるんだ。
もしあいつに取られたらどうしようって、もう気が気じゃ無いんだよ。
「あのな、佐々木…。話、してもいいか。」
「勿論!」
嘘だ。勿論なんて口では言っても、本当は全然聞きたくない。知りたいのに竹内さんの口から聞くのが怖いだなんて、変な話だよ。
今俺ちゃんと笑えてる?大丈夫かな。
「貼りながらで頼む…聞き流してくれていい事だ。」
「オッケーオッケーっ。」
全くオッケーじゃないけどな。
ただ、真剣に貼るフリをしていれば竹内さんの顔を見なくて済む。そう思えば、それだけは救いなんだろう。
上を二つ程折り込まれた袋を見つけ、取り出す。
「法月は今年入ってきたばかりで…慣れさせるって理由で俺について来る事になったんだ。」
そこから一枚の湿布を掴み、透明なシートを剥がして。
「だから部屋は勿論別で、間違っても旅行なんかに行っていた訳じゃなくてだな、仕事で…その、」
あーーもう!竹内さんの言葉選びに時間がかかる話し方、普段は可愛いって見てられるけど今日はダメだ。
帰って昼寝したんだけどな。まだ疲れ取れてなかったかな。
粘着面を外側に向け、両手でピンと伸ばした所で
とうとう我慢の限界が来た。
「結局あいつと付き合ってんの?好きなの?そういう関係なの?!」
「は、はあ?!馬鹿言うな法月は子持ちだぞ!娘がいる!パパだ!」
「ぱぱぁ?!?!」
「ぴゃんっ!!」
…ぴゃん?
見れば俺の手にひんやり冷たい湿布は無い。代わりに竹内さんのスネの辺りへ雑に張り付いた白い塊を発見。
竹内さんは、全く予想していなかった部位へ命中したそれに驚いたのか、膝を高く持ち上げて長い袖をきゅっと握りしめる。
え、嘘じゃん可愛い。この人何歳?
無自覚でぴえんの顔してんの。堪んねえ。
……じゃない。そうじゃなくて。
この人今何つった?
「ぱ、え…なんて?」
「だっ……だから、法月は父親だ。既婚者だ。
朝はその、慌てていてだな…自分でも訳のわからん事を口走っていて…。」
マジかよ。
今までの緊張、急に解れた〜〜〜ッ。
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