164 / 194
第164話
ソファと一体化したみたいだ。
沈むと言うより吸い込まれる感覚。要するに動きたくない。
偶然掌に触れたフェイスタオルを掴み、主に下半身の固まりかけた汚れをゴシゴシと拭う。
あぁ、俺は佐々木に何て事をしてしまったんだろう。
一人きりになったらなったで落ち着かない。この部屋って、このソファって、こんなに広かっただろうか。
煙草を吸う気力も湧かず、ため息と共に落とした視線でひとまず乳首が取れていない事だけは確認出来た。
佐々木の息遣い、唇の形や舌の動き。それらの全てを、胸元の痛々しい噛み跡で思い出す。
あの幸せな夢の続きが見られるわけでもなければ、都合の良い現実が待っている筈も無かった。
小さな間違いを繰り返した故に生まれてしまったのは、大きすぎる後悔だ。
伝えられなかった気持ちは未だ喉を振動させるまでには至らず、これからも音として、言葉として声に出す事は無いのだろう。
俺では性処理道具にもなれなかったか。
…仕方ない。こんなに情けない男では佐々木の想う男の足元にも及ばないかもな。
佐々木に少し触れられただけで簡単にイくような、堪え性のない早漏野郎。その上体力も無いんじゃ若いあいつを満足させることすら出来ない。
声だって、女性のように高くもなければ黙ってもいられなくて。
しかも処女…だったん、だぞ。
佐々木のあんな……のがよく入ったと思う。今も穴の周り、中も含めてヒリヒリするし違和感はえげつないが。
後ろに予想以上の質量を持つものが押し込まれ、正直に言うと気持ちよさはわからなかった。
快感を得られるのはやはり慣れている性器の方なのは明らかで、辛そうに息を詰める彼を見てもどうしてやる事も出来なかった。俺の方が大人なのに、佐々木に縋り付くなんて本当にみっともない。
今後彼が大人や男に対して恐怖心を覚えるようになってしまったら、それは紛れもなく俺のせいだ。
ホストや風俗でもあるまいし、お客相手に無理をして付き合おうとしてくれるなよ。
わざわざ糸を張り巡らさずとも、既に俺はお前という毒グモの巣でぐるぐる巻き状態なんだから。
食い尽くされて死ぬか、味見の結果舌に合わず腐るまで放置されるか。逃げることすら不可能な罠にかかり、主導権は佐々木の手にのみ握られている。
軋む身体を無理やり起こし、スマホに触れた所でもう一度吐き出す深いため息。
時刻はてっぺんを回っていた。
今から家に帰すには俺が送る以外の方法が無い訳だが──…
流石に動ける状態ではない。
廊下から聞こえた足音に気付き、溢れそうになる呻き声を辛うじて押し殺し、下着とズボンだけは身につけた。
「寝室の場所はもう…わかるな。今日はもう遅いから寝て行ってくれ。俺は朝から出るが、好きなだけ居てもらって構わないから。」
「あ…竹内さんはどうすんの。」
「俺はこのままソファで寝る。スペアキーは用意しておくから出る時ポストにでも入れておいてくれればいい。」
不幸中の幸いと言うべきか、目は遂に限界を越えたらしく、霞んで佐々木の顔もよく見えない。
お陰で普段と限りなく近い形で会話を交わす事が出来た。
「…すまない。」
遠ざかる背中に思わず掛けた、小さな小さな独り言。
届いた所で、許される事はないけれど。
ともだちにシェアしよう!

